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2025年は村上春樹氏が受賞。アブダビが主催する国際的ブックアワードとは

UAE(アラブ首長国連邦)の首都アブダビで開かれた第19回「シェイク・ザイード・ブック・アワード」において、日本人初となる「最優秀文化人賞」に村上春樹氏が選ばれた。現地アブダビで2025年4月に開催された授賞式の模様と、その受賞の言葉を紹介しよう。

photo: ©Sheikh Zayed Book Award 2025 / text: BRUTUS

UAE(=アラブ首長国連邦)のアブダビでは毎年、アラブ文学や文化の発展に寄与した人物や団体を選び、「シェイク・ザイード・ブック・アワード」を授与している。世界各国のさまざまな作家や批評家、翻訳者、研究者、出版関連者を表彰することで世界的に認知されているアワードの一つであり、2025年はその第19回となる。文学、翻訳、批評、編集など8つの部門からなる同賞でも、年度を象徴する1名として今回の「最優秀文化人賞」に選ばれたのが、村上春樹氏だ。

村上氏の世界的な知名度は言うまでもないが、作品はアラブ文化圏でも広く読まれており、「国際的かつ現代的な視点で書かれた文学によってグローバルに影響を与えてきた」という点が評価されたもの。2025年4月29日、現地アブダビの会場では村上氏も出席のもとで授賞式が開催され、本人のスピーチも行われた。以下にその受賞の言葉を紹介しよう。

村上春樹氏、受賞の言葉(全文)

「今回、アラブ首長国連邦シェイク・ザイード・ブック・アワードを受賞したことは私にとって大きな驚きであり、また喜びであります。アラビア語は深く長い物語の伝統を持つ言語であり、その言葉が話される国々で私の本が翻訳され、人々に手に取られているということは、まことに光栄なことであるからです。

物語というのは世界共通言語であると、私は信じています。それは風に乗って世界中に撒かれる種子のようなものです。物語は様々な場所に落ち、文化や言語の違いを超えて、そこで人々の心に根を下ろし、美しい花を咲かせます。『千夜一夜物語』を読んだ日本の少年は物語の喜びを知り、あるいは成長して作家になるかもしれません。

世界の各地では現在、残念ながら血なまぐさい争いや、憎しみあいが続いています。良き物語を共有することを通じて、人々の心が通い合うことを、それがほんの僅かでもいいから世界が平和へと向かう力とならんことを、一人の小説家として切に願う次第です」

アワードの舞台となるブックフェア、そしてアブダビの現在

このシェイク・ザイード・ブック・アワードは、「アブダビ国際ブックフェア」のハイライトでもあり、ここを会場に授賞式が行われる。同フェアは中東と北アフリカを中心にさまざまな出版社、書店、メディア関連各社などが集う国際的な本の見本市であり、今年は96の国と地域から1400以上の出展者が集まり、2025年の4月26日から10日間にわたって開催された。

アラビア語とその文化圏を中心軸にしてはいるものの、扱われている出版物の国籍や言語はかなり多彩。目立つのは英語圏からの出展だ。そもそも現在、UAE居住者の過半数は外国人であり、インド、ネパール、パキスタンなど周辺各国から多くの多国籍な人材が移り住み、社会を構成しているため、実はアラビア語と並んで英語が主要な共通語だ。また初等中等教育でも積極的に英語が導入されていることもあり、英文の書籍は広く流通し、手に取られている。

なお日本発のカルチャーとしてマンガ・アニメが大人気なのは、欧米のみならずUAEもまったく同じ。『鬼滅の刃』『進撃の巨人』などのメジャー作だけでなく、新旧多くのコミックス英語版が幅広く販売されている。ライト層からマニアまで無数のファンが育ちつつあり、このブックフェアでも関連書籍が目立っていた。文学方面でも村上春樹を筆頭に、欧米に翻訳されているポピュラーな日本人作家は同じように広く読まれているという。

同じUAEでも、経済成長で先行して巨大商業ビルが林立するドバイとはまた少し異なり、より文化芸術方面の振興に力を入れているのがアブダビの特徴でもある。その中心となるエリア、サディヤット文化地区には、ルーブル・アブダビ美術館やバークリー音楽大学アブダビ校、またチームラボ・フェノメナ・アブダビなどが既にオープンした。

特に、2025年内の完成を目指して建設が進むザイード国立博物館は、UAE建国の父であるシェイク・ザイード初代大統領の名を冠した、同国でも象徴的なミュージアムとなる。時期を合わせてアブダビ自然史博物館、グッゲンハイム・アブダビといったさらなる文化複合施設が、周辺にも続々と建設中だ。

もちろん、一大商業圏として巨大ショッピングモールも複数あり、F1アブダビGPが開かれるヤス・マリーナ・サーキットや、隣接のフェラーリ・ワールドが世界中から観光客を集めていたり、ディズニーワールド・アブダビなどの超大型テーマパークの計画も今後に控えている。

とはいえ、ショッピングやエンタメだけには寄りかからず、また自国内だけのビジネスに足踏みせず、「国際的な文化と芸術」に投資し続ける──そこはUAEの首都という枠を超え、新しい国際都市としての未来像を描くアブダビに一貫しているようだ。それはまた「物語というのは世界共通語」であるという、村上氏の言葉をなぞるような発展でもある。

シェイク・ザイード・ブック・アワード
Sheikh Zayed Book Award