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韓国の朝はスープから。ソウルのとっておき4軒

ソウルに行ったら朝はスープを飲んでほしい。それも地元の人が通うような、一見なんでもない店で。できれば昔からあって、メニューが少ない店がいい。韓国でなければ食べられない一日の始まりに相応しい朝食がそこにあるから。

初出:BRUTUS No.710「最高の朝食を。」(2011年6月1日発売)

photo: Lee Chung Min / coordination: Choi in-Young

ソウルにて、もしも朝から肉のスープが食べたいと思ったら、間違いなく行くべき店が1軒ある。韓国の古い街並みを保存する美観地区として、最近はシャレオツなギャラリーや飲食店などが立ち並ぶ、三淸洞というエリアに、シャレオツとはまったく関係のない店が1軒、ひっそり佇んでいる。

旨いものセンサーというものがあるのならビンビン反応しそうな外観。店の引き戸を開けると、これまたいかにも旨いものを出しそうな、おばあさん3姉妹が朝の8時からスタンバっていてくれる。

店の名前は〈ブヨン・ドガニタン〉、メニューは牛のアキレス腱部分を煮込んだドガニタンと呼ばれるスープと、その肉のみの2種類。当然、朝飯にはスープがいい。韓国の飲食店は、カニのケジャン(醤油漬け)ならそれのみ、サムギョプサル(豚の三枚肉の焼き肉)ならそれだけを出す専門店が多くあり、何でも出す店よりも当然、ある一品を追究した店の方が旨いに決まっている。

この店も、ドガニタンで勝負している。選ぶ素材はすべて国産。牛肉も歯応えのある韓牛だ。韓国の男が男らしいように、韓国の牛肉も実に牛肉らしい強さを持っている。とにかくいい肉を使い、おばあさん3姉妹が丁寧に作るスープが旨くないわけがない。余分な脂は抜けているので、味はサッパリしている。

観光客目当てでないので安い。英語は通じないが、おばあさんの温かみがビシビシ伝わってくる、そんな旨い朝飯を出す店がソウルにはたくさんある。

〈ブヨン・ドガニタン〉のドガニタン

30年間作り続ける、透き通った肉のスープ

もともとは店主のパク・ジョンオッさんが、家族のために作り始めたドガニタン。韓国ではメジャーなスープで、牛肉のアキレス腱を野菜と一緒に4〜5時間煮込む。余計な脂は抜かれ、コラーゲンがたっぷり入った滋養スープでもある。

ジョンオッさんが、お店を始めたのは30年前の50歳の時。近所でも評判の自家製スープを、皆に食べさせてあげたいという思いから。80歳になった今でもその気持ちは変わることなく、家族が食べても安心な肉と野菜を使い、丁寧にスープを煮込む。変わったのは、ご主人が亡くなり、2人の妹が店を手伝うようになったことくらい。小腹が空いた朝にはちょうどいい、サッパリした肉のスープ。

〈スッアチェ・コンナムルクッパ〉のコンナムルクッパ

もやしのクッパがこれほどまでに旨いとは!

実は今回の2泊3日ソウル取材の旅で3回も行ってしまったのが、この旨すぎる豆もやしクッパの店〈スッアチェ・コンナムルクッパ〉。もやしのクッパっていったら、まあ大体一緒だろうと思うかもしれないが、それは大間違い。

まず、ここの豆もやしはただ者ではない。豆が大きくサクサク&ホクホク。海産物をベースとした秘伝のスープは、コクがあって他店の追随を許さない貫禄。ご飯と卵が投入され強火で仕上げられた熱々のクッパに、自家製のアミの塩辛と青唐辛子で味つけしていく。

16年前、もともとホテルのシェフだった店主が店をオープン。1日に500杯もオーダーが入るクッパのほかに、緑豆のチヂミがまた旨い。

〈松竹(ソンジュッ)〉のチョンボッ・ネチャン・チュッ

緑色のお粥の正体は、アワビの肝

こちらはスープではないが、1968年創業という歴史あるお粥の専門店〈松竹〉。専門店だけに、お粥のバリエーションは常に10種以上と充実。

その中でも、ちょっと贅沢な朝粥にチャレンジしたいなら、お店イチオシのアワビの肝入りのお粥をチョイスすべし。店主の出身である済州(チェジュ)島で水揚げされた、ミネラルやビタミンを大量に含んだコリコリのアワビを使用。もち米とうるち米をブレンドしたものを、牛骨のだしで煮込み、そこにミキサーですりおろしたアワビの肝をミックス。

卵の黄身とゴマ、刻み海苔を加えて完成。見た目は驚きの緑色だが、一口食べれば、今まで頑張ってきた人生のご褒美に相応(ふさわ)しい朝の味といえる。

〈ムギョドン・ブッオグッチプ〉のブッオグッ

これぞ、ソウルのソウルフード的なスープ

韓国で散々旨いものを食べて帰ってきた食通の友人に、結局何が一番旨かったか尋ねると、この店のタラのスープと言う。大概の韓国料理は日本でも食べたが、このタラのスープだけは別格だったという。

その話が忘れられず、訪ねた今回、確かに旨かった。そしていい店だった。牛骨などで12時間煮込むだしに熟成した干しダラを加えたスープは白濁しタラのいい香りが漂う。

店主のジン・クァンジンさんの話が印象的だった。「自分も貧しい時代があったから、お金のない人の気持ちはよくわかる。おいしいものをできるだけ安く、お腹いっぱい食べてもらいたい。だからうちのスープは何杯お代わりしてもらってもいいんだ」