理想の“かわいい”のために。思うがまま、自分をプロデュースする
多くのグループで独自の“かわいい”表現を追求し、自作自演のセルフプロデュース・アイドルとして、若い女性から絶大な支持を得る戦慄かなの。その始まりは、2018年に立ち上げたfemme fatale。ZOCでの活動を経て、自らの理想を形にするために、実の姉妹で結成したユニットだ。
「妹（頓知気さきな）はアイドルをやる気はなかったけれど、信頼関係があるし、喧嘩しても次の日には仲直りできる。だから、自分のやりたいことをやる場として始めました」
それからというもの、純粋な創作への衝動を優先し、採算度外視で全力を注いだ。「あり金を全部つぎ込んで、膨大な時間や労力をかけました。クイックに動けるから、思いついたことをすぐ実現できるんです。夏祭りに行けなかったから金魚すくいができるライブをしよう！って言って、実際にやっちゃったり（笑）」
アイドルという枠に収まらず、“かわいい”を中心に据えた遊び心と実行力が、彼女の原動力になっている。ただ、全力投球し続けることで、アウトプットし切った感覚になり燃え尽きてしまうことも。やりたいことを自由にやる分、不安やリスクとも常に隣り合わせだ。
一方で、戦略家の側面も併せ持っている。femme fatale最大のヒット曲「だいしきゅーだいしゅき」は、TikTokでのバズを意識して制作したという。
「ヒットしたのは嬉しかったけど、そうなるとファンはまたそういう曲を求める。でも、迎合するだけのアイドルにはなりたくない。自分たちのやりたいこととのズレが出てきて、そういった葛藤もありました」
自分の考える“かわいい”を信じて表現し続ける
並行して始めたのが、かてぃとのユニット・悪魔のキッスだ。「悪魔のキッスは分業制。MV編集や曲のリファレンスは私が考えて、楽曲制作はサクライケンタ、グッズはかてぃが担当していることが多いかな。私はこだわりが強いので、MVも編集段階から立ち会って“このカットをここに差し込んで”とか延々やらないと気が済まないんですよ。“かわいい”を具現化することへの意地がすごいんだと思う。もはやただのエゴですよね。でも、そうしないと満足できない」
実際のところ、その“かわいい”へのこだわりは、執念に近い。「アイドルのMVって、ダンスとリップシンクがあれば一応成立しちゃう。でも、それだとかわいさがちゃんと伝わらない。私はアイドルに憧れてきた時間が長すぎて、そこだけは譲れないんですよね」
さらに彼女は、ソロ活動でも独自の立ち位置を築いている。「ソロもアイドルのつもりでやってるんですけど、なぜか対バン相手がいつも呂布カルマさんとかJinmenusagiさんとかラッパーが多くて（笑）。サウンドは歌ものからクラブミュージックまでバラバラで、もはや人格崩壊してますよね。でも全部“かわいい”と思ってやってる。femme fataleは甘い世界観、悪魔のキッスは私とかてぃがディグってる素敵なもので構成されていて、ソロはR&Bもファンクもハイパーポップも全部をかわいく表現する場所」
彼女にとって“かわいい”は他者のための装飾ではなく、自己表現そのものだ。「私は隠すことが何もなくて、全部をさらけ出してる。週刊誌に3回撮られたけど、誰もファンをやめてない（笑）」
すべてを見せ、すべてを燃やし尽くし、それでも“かわいい”を信じて表現し続ける戦慄かなの。彼女のセルフプロデュースは、そういった自己表現の結果として、多くのファンを夢中にさせている。
