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杜の都・仙台で受け継がれるナチュラルワインのバトン。酒場〈大學〉と〈Love Song〉を訪ねて

東北・仙台は、笹かまぼこや牛タンの町かと思いきや、堂々たる酒都だった。杜の都に隠れた宝石、〈大學〉〈Love Song〉へ。

初出:BRUTUS No.1005「旅したい、日本の酒場。」(2024年4月1日発売)

photo: Sachie Abiko / text: Michiko Watanabe

大學(大町)

〈大學〉店主・大學(だいがく)善一さんと真理さん夫妻のざっくばらんな雰囲気に、客は知らず知らず気分が明るくなる。この2人、〈Love Song〉の板垣卓也さんの愛弟子といっていい。

勤めていたホテルが震災前年に閉店となり、誘われて、板垣さんが営む店で働くことに。そして、独立。現在の店舗は探しに探し、2年かかってやっと見つかった物件だった。間もなく5周年になる。

仙台〈大學〉店主夫妻
通りに面した窓を開ければ、外でスタンディングもOK。

最初は、乾き物とナチュラルワインの店だった。1年後、コロナがやってきた。休まないと決めて店を開いていたら、「何か作ってほしい」という常連客が多かった。だけど、料理人ではないから、作れるのはおうちご飯のようなもの。「それでもいい。実家みたいでいい」と客。

ならば、もっと勉強しようと真理さん、頑張った。作ってみたいと思ったものはすぐに作った。作ってみてわからないことは、それまで出会ったシェフたちに遠慮なく聞いた。そうして、一品ずつ魅力的なメニューが増えていった。

仙台〈大學〉メニュー表
「大學に入學下さいまして、誠に有難うございます」の挨拶で始まるメニュー。和洋中にエスニックまで楽しいラインナップ。
仙台〈大學〉水餃子
黒酢で食べる、セロリと鶏挽肉の水餃子(5個)660円。
仙台〈大學〉コーヒーゼリーと自家製バニラアイスのパフェ風
大人のコーヒーゼリーと自家製バニラアイスのパフェ風690円。

ポイントは、「おいしい」はもちろんだが、「お酒に合うかどうか」だ。合わせるにはどうしたらいいか。試飲&試食しながら、ワイン担当の夫ともよく相談し合った。夫・善一さんは、惚れ込んだ造り手を訪ね、またインポーターとも親交を深めていった。時には夫婦で収穫の手伝いにも行く。

フードは、水餃子やチヂミ、焼きそばに黒酢酢豚、ナポリタンなど、気取りのない身近な料理が並ぶ。これぞ実家感覚、いいじゃないか。大學夫妻ならではの“ワインスナック”は、まだまだこれから花開く。

仙台〈大學〉店内
2人の連携プレーはスムーズ。ワインを愛し、ワインを愛してもらいたいという思いが店内にあふれている。

Love Song(大町)

ナチュラルワインを広めてきた仙台のリーダーに会う

何にしても、先駆者たる人物に苦労はつきものだ。〈ラブソング〉店主・板垣卓也さんもそうだった。2002年、普段着のフランス料理を伝えたいと〈ブラッスリー ノート〉を開いた板垣さん。フレンチをやるからにはワインは欠かせないが、当時は、飲めてもせいぜい1~2杯だった。

ところが04年、南仏・ローヌの大岡弘武さん率いる〈ラ・グランド・コリーヌ〉のワインを飲んで衝撃を受ける。1本するりと飲めてしまったのだ。以来、ナチュラルワインの虜(とりこ)に。調べ、学び、生産者に会い、店のワインをナチュラルな生産者のものに替えていった。

10年過ぎる頃、手がける店は3軒となり、いつしか、仙台でナチュラルワインの伝道師的な存在になっていた。板垣さんは考えた。これからは、若い人たちを応援する側に回りたい。広げていくのではなく、絞り込んで深く根を張りたい。そして、未来を見据えて、若い人たちにバトンを渡していきたい。そう決めた。

そして2023年、この〈ラブソング〉を開いた。ボトル販売とおすすめワインの有料試飲ができるスペースだ。潔く、カッコいい。