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セルフビルドで変化し続ける、鳥取の広大な森の住まい

日本の、世界の住まい手たちが手がける居住空間、その進化が止まりません。鳥取の古い別荘地の森を拓き、セルフビルドで家を建てた、谷本大輔さん、OLAibiさんの居住空間を訪ねます。

初出:BRUTUS No.869『居住空間学2018 歴史をつなげる部屋。』(2018年5月1日発売)

photo: Keisuke Fukamizu / text: Tami Okano

確固たる理想なんてない。家も暮らしも、日々、変わる

鳥取は大山の麓、6,000坪の森の中に住んでいる。東京から家族3人で鳥取に来たのは2012年。鳥取には大輔さんの実家があり、「実家から送られてくる野菜がおいしかったから、いっそ引っ越しちゃおうか」と思い立ち、まずは大輔さんが幼い頃に暮らした村の古民家に移り住んだ。この場所と出会ったのは、1年ほど後のこと。せっかくだから、もっと自由で広い場所に小屋でも建てようか、ということになり、不動産屋に紹介されたのがこの「森」だった。

「電気も水道も通ってなくて、敷かれているはずの町道すらどこにあるかわからないくらい鬱蒼としていました。でも、ここは小さな木造住宅なら確認申請なしで建てられる土地で、自分で家を建てたことはなかったけど、なんでだろう、不安はなく、決めちゃったんですよね」と大輔さんは振り返る。

最初は古民家から車で通いながら森を切り拓き、「そのうち、行き来にかかる時間がもったいなくなって」森の一角にティピを建て、キャンプ同然の暮らしが始まった。

「もともとアウトドア派だったわけでもなく、なぜそんなことができたのかって、よく聞かれるけど、季節は夏で、森の中は気持ちよくて、ただただ、楽しかったんですよね」とオライビさんは笑う。

まずキッチンを造り、雨風がしのげる屋根を架け、最低限のインフラを整えつつ、半年後、ヒュッテと名づけられた家のベースが完成する。そこに友人知人が遊びに来るようになり、プライベートな空間の必要に迫られて、今、シェルターと呼ばれている住居棟が出来上がる。

「手作業で建てるから部材は扱いやすい大きさの、ホームセンターでも手に入るごくごく普通のものです。設計図なしの目分量、構造は同じでも、同じ形にはならなくて、壁の傾斜が強くなったり屋根が高くなったりする」と大輔さん。実際に、シェルターの次に建てた音楽小屋は、思いのほか、背が高くなった。壁はそれまでの合板をやめ、無垢の垂木材にするなど、建てるたび、少しずつ、進化もしてきた。

そして昨年、小学生の頃から家づくりに参加してきた空南くんも、5歳にして「自分の家」を建てた。かかった日数はたった9日間。インフラはあえて、通していない。これと決めたら貫く性格で、コーヒーに魅せられ、春からヒュッテで〈ANAN coffee〉もスタートさせた。オライビさんは言う。

「この森に来たのも突然だったけど、状況はいつも突然、変わる。それに合わせて家も、暮らし方も変わってきたし、これからもきっと、行き当たりばったり。移住やセルフビルドという言葉が並ぶと、確固たる理想の暮らしを追い求めているんですね、なんて言われることもあるけど、そんなの思ってもみなかったし、理想というのも、日々、変わっていく。その変化を受け止めてくれる場所が、私にとって住まいなんだと思います」