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きっと海水浴にも行けたスーパースター前夜。『Slow Dancer』ボズ・スキャッグズ。バラカンが選ぶ夏のレコード Vol.14

ピーター・バラカンが選ぶ32枚のレコードストーリー。「ピーター・バラカンがオーナーのリスニングバー〈cheers pb〉で夏にかけるレコードの話を聞きました」も読む

illustration: TAIZO / text: Kaz Yuzawa

『Slow Dancer』Boz Scaggs(1974年)

きっと海水浴にも行けた
スーパースター前夜。

イギリスのレコード店は盗難防止のために、エサ箱にはジャケットだけを並べてレコードは仕舞っておくシステムでした。そうすると棚卸しの時にジャケットと中身が合うか確認しなくちゃならなくて面倒なんですが、あるときボズ・スキャッグズのデビュー・アルバムのジャケットが見当たらなくて、それで仕方なく僕がレコードを持って帰ったんです。

それで家で聴いてみたらギターの演奏がカッコよくてビックリしたんだけど、でもジャケットがないから誰が弾いているかわからない。追加注文したレコードが届くまで悶々としたんですが、しばらくして届いたジャケットを見たら、それがドゥウェイン・オールマンだとわかって納得しました。そんなユニークな体験をしたすぐ後にこの『Slow Dancer』が出たので、印象に残っています。

そんなことがあったので『Slow Dancer』もすぐに聴いてみたんですが、デビュー作とはまったく違うテイストでした。今回はソウルの世界で有名なプロデューサーのジョニー・ブリストルが手がけて、僕好みの黒っぽい音になっていて、さらにカッコよかったんです。それ以来、僕の愛聴盤の一枚になって、今もボズの中で一番好きなレコードです。

ただ、このアルバムは『Silk Degrees』の1作前だったので、ボズはまだ知る人ぞ知る存在でした。その後の彼は、1976年に『Silk Degrees』の大ヒットでスーパースターの仲間入りを果たし、しばらくは僕の語彙にない「AOR」路線で大成功を収めていくわけです。

でもボズは次第に迷いを感じていたようで、結局レコード会社が要求するサウンドに束縛されるのを拒否して、レーベルを移籍することになりました。88年に復帰してからは落ち着いた活動をするようになります。
彼は今77歳ですが、2年ほど前の来日公演ではとてもいい味を出してました。彼のようないい年のとり方ができたら最高でしょう。

このジャケットの写真は今見るとちょっと妙に感じるかもしれませんが、当時はこれが普通でしたね。こういうファッションの変遷は恐ろしいものですね。

Boz Scaggs

side A-5:「Hercules」

アラン・トゥーサントの作で、エアロン・ネヴィルが歌っていた曲ですが、僕はこのアルバムで知りました。つい最近、ゲットー・プリーストが出したソロの新譜『Big People Music』でこの曲をレゲエ・ビートで歌っていて、それがすごくよかったので、ボズ版も久しぶりに聴きたくなりました。