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柴田聡子が綴る、ある2週間の日記。書籍『きれぎれのダイアリー 2017~2023』発売を記念して特別寄稿

歌だけでなく詩や小説など様々な形で創作を行うシンガーソングライターの柴田聡子が、文芸誌『文學界』で7年にわたり連載したエッセイをまとめた単行本『きれぎれのダイアリー 2017〜2023』を発売。日々のまなざしが詰まった日記を寄稿。

photo: Kazufumi Shimoyashiki / text: Satoko Shibata

柴田聡子が綴る、ある2週間の日記

9月15日(金)

晴れ。夏風邪を引いて以来控えていた朝一番の散歩に久しぶりに出かけてみる。まだまだ夏のように汗が吹き出しそうになってくるけれど陽の色の黄み・赤みは一段深くなった。青の要素が少なくなっていく。昨日初めてやってみた自重の筋トレで腕が筋肉痛。

9月16日(土)

くもり。蒸し暑い。今日も散歩に出る。父母も散歩に出ていて、コーヒーを飲んでリスを見ていると報告がくる。ベローチェで川野芽生さんとの対談の原稿をチェックする。川野さんの口にした言葉、芭蕉の「いいおおせてなにかある」。

9月17日(日)

くもりのような、晴れのような。今日も外に出た。以前ほどがっつり歩かずに15分くらいてくてくしてベローチェに来た。コーヒーがうまい。コーヒーならなんでも良いのだ……。昨日は神保町ひとりぼっち。昔の曲を歌いたく無い日がある。前を歩く人から漂ってくる汗臭さ。

9月18日(月)

晴れ。大阪へ。途中、名古屋あたりで一瞬雨。USエモシーンの4バンドの来日公演に参加。アコギ一本で現れた自分にあたたかい声を送ってくれたお客さんたち。The Hotelierが格好よかった。夜、たこ焼きを食べて幸せ。

9月19日(火)

晴れ。東京へ帰る。タクシーに乗って4,000円弱使いどきどきしている。ぜいたくをして良い身の上かどうか気になる。清貧はどこで覚えたか。果たして私はそれを好んでいるのか。今日が休日めいているから?せめて働いていれば乗る権利がある?何をする権利が私にあるのか問うている、変新大阪の駅のホームでホリエモンを見かけた。

9月20日(水)

くもり。8時くらいに起きる。この頃、何時に寝ても8時くらいに目が覚める。またベローチェに来た。いつも使っているライフノート、リングのものではなくパッド型のものを買ってしまった!!アホ!!こういうこと最近多すぎ。気をつけてね。Doja Catのインスタの写真がどんどん怖くなる。

9月21日(木)

雨。起き抜け外に出てみると昨日より少しだけ涼しい。「日本語の作文技術」、終盤の章、身につまされる。書かないと健やかに眠れない。もう一生誰ともいさかいを起こさずにいたい。午後はバンドのリハ。

9月22日(金)

雨のちくもり。昨日よりも少しだけ涼しい。来年このあたりの日記を見て「暑かった」、または「今年もヤバい」、どっちを思うんだろう。疲れてはいるから気をつけて。

9月23日(土)

雨。部屋の中から見ると小降りのよう。焼いてもいないのにパンの匂いがするのはなぜ。今日は急に涼しい。長袖を着られてうれしい。サンドイッチを作った。フルーツてんこ盛りのものとハムレタス。

9月24日(日)

晴れ。三日ほど雨が続いたから陽に当たるのがうれしい。KISS OF LIFEの「Shhh」がめっちゃいいな〜。ナッティのダンスは最高。『SIXTEEN』で自身で振り付けてソロで踊った「Lay Me Down」、いつ見返しても涙がこみ上げる。ベルのホイッスル、いいな〜!!私も出したい!秋風が気持ち良すぎ。

9月25日(月)

くもり。涼しいなあ!どうしてこんなにも急激に気温が下がるんだろう。これから暑くなる感じもしない。やる気が出る方法を書いたという本の内容をかいつまんで解説してくれるYouTubeをふと観たら途端にモチベーションが上がり、戸惑う。午前中、バンドで録音のプリプロ。夜はそのままAnna of the Northのサポートアクトでライブ。久しぶりのバンドセット。

9月26日(火)

晴れ。昨晩は寝るのが遅かったので10時まで眠った。やたら体が軽い。ベローチェに来た。パッド型のノートも今のところまだ大丈夫。昨日は久しぶりに泣いた。日記と私は一生の友人。夜はHelsinki Lambda Clubのツアーファイナルで少し歌う。みんな優しかった、ありがとう。明後日の登山のために富士山にも登れるという靴を買う。

9月27日(水)

晴れ。昨日の24時に新曲「Synergy」が配信されたので興奮。その割に早めに寝つけたものの早く起きちゃった。パッド型のノートもいいかもな。一枚一枚のページがしっかりしているものは毎日ごりごり書くにはもったいなく思う。薄さ、軽さ、いっぱいページがある感じが丁度いい。なかやまきんに君主演のドラマのビハインド映像を見て自然と笑って元気増量。大事なところは太字にしてある本についての歌を作りたい。

9月28日(木)

6時に起きる。まだ空の色が薄くて今日が晴れかくもりかわからない。筑波山を登りに行く日。こういう早起きの日の前日はたいていうまく眠れないけれど今回はよく眠れた。うれしい。少しでも日記を書いてから出発しよう。朝一番で都民税を払い込んだ。一日をかけて忘れていくことができるように。

9月29日(金)

晴れ。今日は新グッズであるアウトドアチェアの撮影で大きな公園に行った。協力に来てくれた友人はコロナの影響でまだ味覚嗅覚が戻らないという。一緒にコーヒーを飲んで、パンを食べて、おいしいね、とつい話しかけては謝る。

9月30日(土)

くもり。雨が降りそう。あまり縁の無い知り合いと笑えるくらいのガチ喧嘩をする夢を見た。夢でよかった。昨日会った友人から、鍼に行ったら味覚嗅覚が戻った!という知らせが来た。ほんとうによかった。

『きれぎれのダイアリー 2017~2023』書影
『きれぎれのダイアリー 2017~2023』
文芸誌『文學界』2018年1月号から2023年10月号に掲載された柴田聡子の連載「きれぎれのハミング」をまとめた一冊。日々の生活や趣味の事柄を感じたままに綴る、肩肘張らない文章が心地よい。
文藝春秋/2,310円。