5,500m超の雪山で自分だけのラインを探す。ビッグマウンテンスキーヤー・佐々木大輔の冒険譚

過酷な環境に身を置くだけでなく、時に命の危険をさらしながらも、挑むことをやめない冒険者たちがいます。何が彼らを駆り立てるのか、何に喜びを感じているのか。ビッグマウンテンスキーヤーとして世界大会で成績を残す傍ら山岳ガイドとして活動し、自然の魅力を伝えている佐々木大輔さんが語る冒険譚と、その理由。

photo: Tomoki Kokubun / text: Yuriko Kobayashi

ビッグマウンテンスキーヤー・佐々木大輔さんのことを知る人の多くは、彼のことを「少年がそのまま大人になったような人」と表現する。

2017年、北米大陸最高峰のデナリ山頂からスキーで滑降。挑んだ南西壁は最大斜度55度、標高差3000mと、デナリ山の中でも最難関のルートとされ、滑降に成功した例はほとんどなかった。拠点とする北海道でも数々の難所の滑降に成功してきた佐々木さん。その記録だけを見ていると、極めてストイックな人物像を想像してしまうのだが……。

「そういう面もあるかもしれませんが、どんな冒険的な挑戦をする時でも、一番好きで、大切にしているのは仲間と一緒に楽しむということ。目指す斜面を滑ることを最終目標に据えつつ、そこに到達するまでの過程を面白がる。それは山やスキーを始めてから今日まで変わりません」

冒険家が何か偉業を成し遂げた時、光が当たるのは主にその記録だ。けれどそこに至るまでの過程には語り尽くせないストーリーがある。この春に行ったパキスタン・カラコルム山脈での遠征も例外ではない。

「ヒマラヤの西の端っこに、ほとんど人が滑ったことのない斜面があるんです。パキスタンに入国してから、車で入れる最奥の村まで断崖絶壁の道を走る。そこから雪のある場所まで4日トレッキング。その後はスキーを履き、荷物を載せたそりを引っ張って数日間歩きます。標高約5000mの滑走エリアに着いたらキャンプを作って、周囲の山々を滑りまくるという計画。日本を出てから山を滑るまで2週間近くかかりました」

情報の少ない地域ゆえ道中は手探り。雪や氷河の状態により目的地を変えざるを得ないこともあった。

「滑る斜面も未知ではありますが、そこに至る一日一日が未知の連続。こっちのルートは歩けないから、あっちはどうかなとか、メンバーで知恵を出し合って考える。そうすると考えもつかなかった新しいアイデアが出たりする。スキーと同じで、自分たちのラインを作っていくような感覚です。僕はそんな時間の中にこそ冒険の面白さがあると思うし、刺激を受けながら学んでいくのも、かけがえのない経験だと思うんです」

吹けば飛ぶような人間の命。好きなことをして、生きる

北海道札幌市の中でも山が近い地域で育った。父は自ら家を建て、五右衛門風呂や家具など、なんでも自分で作る人だった。幼い頃からスキーに親しみ、高校在学中からガイド会社で見習いとして修業、本格的な登山やスキーの技術や知識を身につけた。プロスキーヤーとして世界の大会に参戦する傍ら、仲間と冒険的な遠征活動を行うようになる。

26歳の時にはシーカヤックで約40日かけてグリーンランド西海岸のフィヨルドを遡上。海から聳(そび)え立つ雪山を滑った。ただ高い山を滑るだけではない、そのユニークな発想は、少年時代に憧れた冒険家・植村直己からの影響が大きいと振り返る。

「植村さんは世界で初めて五大陸の最高峰すべてに登頂したすごい“登山家”という印象が強いかもしれませんが、自作のイカダでアマゾン川を下ったり、犬ぞりで北極圏を単独で旅したり、面白くて挑戦的な冒険をたくさんした人。小学生の頃にそんな冒険譚を読んで、強く憧れました。カラコルムやグリーンランド、パタゴニアなど、これまで遠征した先はどこもかつての探検家が旅した場所で、そうした本を読むたびに、人が僻地に惹かれるのは今も昔も変わらないんだなと感じますね」

もちろん冒険は面白いだけではない。今回のカラコルム遠征では大斜面の滑降中に誤って窪地に転落し、背骨を骨折。現地での入院を経て、なんとか無事に帰国したばかりだ。

「そんな危険なことをなぜ続けるんだと思われるかもしれませんが、僕は命というのは、おとなしくしているから保てるものではないと思う。以前、南極観測隊に参加したことがあるのですが、何万年も前からそこにある隕石や氷河を前にした時、人間の命って一瞬の奇跡みたいなものだなと感じて。吹けば飛ぶような儚(はかな)いもの。だったらその命を大切に、自分が本当に好きなことをやっていきたい。改めてそう思ったんです」

カラコルム山脈
カラコルム山脈、標高5,000m以上の山々に囲まれたこの場所を「カラコルム・スキーヘブン」と名づけ、大斜面を雪崩と競走するように滑った。手前にあるのが落下した窪地。

冒険に出るたびに、新しい発見や学び、興奮や危険に出会う。自分の命の脆さを思い知り、それが唯一無二のものであると確かめる。限られた命を、燃やし尽くしたいと思う。

「次は南極海に浮かぶサウスジョージア島の山に行ってみたい。かつて冒険家のシャクルトンが遭難して辿り着いた島で、氷河帯や山がたくさんあるんです。そこで滑ってみるっていう冒険も、楽しそうだな」

未来の計画を語る佐々木さんは、なんともいえず楽しそう。その顔はまさに“冒険少年”のそれだった。

佐々木さんの冒険を感じる旅先へ

北海道 知床半島 地図
北海道・羅臼岳
日本屈指の原始的な自然が残る知床(しれとこ)半島。知床火山群の主峰・羅臼岳(らうすだけ)はヒグマが闊歩(かっぽ)する野性味あふれる山。山頂からは知床連山や国後島(くなしりとう)を望む。「人間以外の生物が生きていて、そこには当然危険もあると体感できる場所。登山せずとも、知床国立公園内を散策するだけでも濃い自然を感じられます」(佐々木)
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