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深津さくらの実話怪異手帖:第二十九回「逆さま」

怪談師・深津さくらが、自ら蒐集した実話の怪談を綴る。前回の「死の瞬間」を読む。

text: Sakura Fukatsu

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第二十九回「逆さま」

Sさんが久しぶりに実家に帰省したときの話だ。夜にリビングで過ごしていると、母親が少し神妙な面持ちで厚い本を持ってきた。それはSさんの小学校の卒業文集で、将来の夢や学校生活の思い出がまとめられていた。

懐かしいものが出てきたなと思いながら眺めていると、母親があるページを開いて見せてきた。それはSさんのクラスで作ったアンケートのページだった。

まず目に入った項には“おしゃれな人ベストスリー”とあり、クラスの投票上位3人の名前が書かれていた。正直、3人はどちらかというと中学以降は冴えない印象だった。“一生独身そうな人”の3人は、10代の間に全員が結婚していた。“いいパパママになりそうな人”で1位に選ばれた人は、つい先日児童虐待で逮捕されたことがニュースになったばかりだった。

「なんか、ここに書かれていることと現実が全部逆さまになってるね」。Sさんが言うと、母親は何度も頷きながらある項を指さした。

“長生きしそうな人ランキング”だった。1位と2位の人は、病気と事故によって既に亡くなっていた。3位にSさんの名前があった。その後、心配性の母親によって、卒業文集は焼却処分されてしまったという。

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