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深津さくらの実話怪異手帖:第十四回「気づかないまま」

怪談師・深津さくらが、自ら蒐集した実話の怪談を綴る。前回の「ただいま」を読む。

text: Sakura Fukatsu

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第十四回「気づかないまま」

奇現象の噂が絶えない神社のそばにRさんの実家はあった。そのせいか、家にはときどき奇妙なものが上がり込んできた。ある晩、自室にあるゲームモニターの前に腰かけたRさんは、ヘッドホンを装着して、いつものメンバーと通話をしながら『スプラトゥーン』のオンライン対戦を楽しんでいた。

試合は熱を帯び、実際のスポーツさながらの集中が求められた。ある試合が佳境に入ったころ、ふいに天井の照明が不規則なリズムで明滅し始めた。蛍光灯が切れかけているのだろうか。多少気にはなったが、画面から目を離すわけにはいかなかった。

しばらく遊んで満足したRさんは、仲間との通話を終えて、疲れを感じながらヘッドホンを外した。改めて不安定な照明の状態が気にかかる。それに、もうコントローラーには触れていないのに、どこからかボタンをパチ、パチと弾くような音も聞こえる。

何気なく後ろを振り向くと、背後の扉がいつの間にかうっすらと開いているのが目に入った。その隙間から、誰かの腕が壁づたいに伸びて、扉の脇にある照明のスイッチに触れていた。青白い指が痙攣するように震え、パチ、という音とともに、あたりが真っ暗になった。

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