第二回「もうひとりいる」
なぜ、この子に恋人ができないのだろう?
友人に紹介されたのは、Aの理想が具現化したような女性だった。ずっと彼氏ができないのだと彼女は言ったが、Aはそれが不思議で仕方なかった。初めてのデートで終電を過ぎた二人は、都心の雑多なラブホテルに入った。Aは舞い上がるような気持ちで、温かい彼女の背中に腕を回した。
そのとき、なにかが手の甲に触れた。包みこむような、しっとりと冷たい感触。見えはしないがどう想像しても“手”だった。
しかし彼女の両手はAの背中に回っている。いま自分の手に触れているのは、彼女のものではない誰かの手だ。
驚いて腕を振りほどいたAを彼女が不思議そうに見上げた。なにかの勘違いだろうか?ひたひたと寄せる恐ろしさを頭の隅に追いやって、Aは彼女との行為を続けることを選んだ。しかし、その後も時おり柔らかく冷たい手がAの手を握った。行為が終わるころにはおぞましさに耐えられなくなり、逃げるようにホテルをあとにした。
「彼女とはそれきりです。あの夜、彼女に恋人ができない原因そのものに、僕は触れられたのかもしれません。過去、彼女と行為に至った他の男性も、同じ体験をしてきたのでは」