シャッターチャンスを「待たない」。
偶然の出合いの中にこそ、奇跡の一枚が
動物を愛し、撮影する写真家は数多く存在するが、阪田真一さんのフィールドはジャングルでもサバンナでもない。全国の動物園や水族館に通い、そこで暮らす生きものたちにレンズを向ける、“動物園写真家”だ。
プールに飛び込むホッキョクグマや、なんともおいしそうにごはんを食べるカバ、ドキッとするような鋭い視線を送るゴリラなど、その作品はどれも印象的で、生き生きとしている。どうしたらそんな写真が撮れるのか?動物園を一緒に回りながら、撮影の様子を見せてもらうことにした。
エントランスで阪田さんと合流。「さて、今日はどの動物を狙いますか?」と鼻息荒めに尋ねると、「う~ん、とりあえず、順路通りに回りましょう」とのこと。あれ?思ったよりすごく……、のんびりしている。
動物の展示の前に行くと、まずはじっくりと彼らを愛でながら、「暑いね~」「朝ごはん、まだ?」と声をかけたり、「あそこに赤ちゃんがいますね」と家族構成を確認したり。カメラを首から下げているものの、その動きは一般の来園者と何も変わらない。
「だって、かわいいじゃないですか。だから撮る前に、見る。そうやって観察していると、あの子はすごく活発だなとか、親子のやりとりが和むなとか、わかってくるんです。そしたら自然と撮りたくなるでしょう?」
かわいい動物園写真の極意は、じつにシンプルかつ本質的だ。
展示の前で、5分ほど動物たちを観察したあと、カメラを構え始めた阪田さん。大勢のペンギンが泳ぐプールの中で、一羽に目をつけたらしい。
「この子はすごく人懐っこくて、人の視線を感じると寄ってくるんですよ。カメラを向けても、ほら」
シャッターを切るほどに、阪田さんの方に近づいてくるペンギン。至近距離で泳いだり、毛繕いをしたり、さまざまなポーズを見せてくれる。
「よく、すごく長い時間、シャッターチャンスを待っているんでしょう?と聞かれるのですが、いつもこんな感じです。動物園にはたくさん生きものがいますから、待つ時間がもったいないというのもありますね。今、ここで待っている間に、ほかの動物が面白い動きをしているかもしれない。そこに立ち会えるかどうかは100%偶然ですが、僕はそれも含めて面白いなと思っているんです」
その教えに従って、自分でもカメラを構えてみる。「あ、今の動き、かわいい!」と思ってシャッターを切ろうとするが、いざというときに限って、柵や檻が邪魔してしまう(がっかり)……。
「ははは、それは動物園あるあるですね。でも、野生動物っぽく見せたいと思っているわけじゃありませんから、柵や檻も動物園写真だからこその面白さであり、リアルな環境の表現だと僕は思っているんです。例えば前ボケで柵を入れると、ちょっとカッコいいフレームみたいに見えませんか?檻の格子、ガラスの写り込みも同じで、それらを含めて構図を考えると、楽しくなってきますよ」
確かに、動物園の柵はポップなカラーのものが多い。人工物と動物のバランスや、色の組み合わせを意識すると、サバンナで撮影されたネイチャーフォトとはまた違った、面白い動物写真が生まれるじゃないか!
「これは少し技術的なことになりますが、大切なポイントのひとつは、動物の目にピントを合わせること。太陽の位置などを計算に入れて、瞳にハイライトが入るように撮影すると、生き生きとした表情になります」
なるほど! それはアイドルの撮影とも通ずるような……。
「まさに、そうですね(笑)。ライティングができないので、そこは少し難しいですが、うまくいくと、写真がグッとよくなります」
魚類の展示では、もうひとつアドバイスが。
「水槽の撮影はガラスに自分が写り込んだり、やや難しい点がありますが、そんなときはスマホを使うのがおすすめ。ガラスぎりぎりにスマホを近づけると写り込みを防げますし、素早い動きの魚にも追従できますから。腕が届く範囲で角度を変えながら、かつ素早く撮影できるので、他の来園者の観覧に少しでも配慮できるのもいい点です。」
3時間ほどかけて、ぐるっと動物園を回って、この日の撮影は終了。なんだか、ただ純粋に動物園を楽しんでしまったけれど、カメラロールを見直すと、多少ピントが甘かったりするものの、面白い写真が撮れたような気がした。
「それでいいんですよ。まずは動物たちとの出合いを楽しむこと。それ抜きにかわいい写真なんて撮れません。基本的には普通に園内を観覧しながら撮影しますが、もし、より動きのある場面に立ち会いたいという場合は、園のホームページやSNSで餌やりの時間やイベント情報をチェックして行くのがおすすめです」
最近は展示方法や、餌やおやつの与え方を工夫することで活発な動物の姿を見せる園も増えているとか。園の特徴を事前に調べて行くと、撮影はもちろん、これまで以上に動物たちとの出合いを楽しめそうだ。