Read

Read

読む

所在地非公開。坂本龍一の面影を感じる図書室、〈坂本図書〉へ

坂本龍一の蔵書を手に取り、読むことができる〈坂本図書〉。このスペースをなぜ作ることになったのか?どんな本が並んでいるのか?さらには読書にとどまらない体験も。その謎と魅力に迫るべく、都内某所を訪ねた。

本記事は、BRUTUS「わたしが知らない坂本龍一。」(2024年12月16日発売)から特別公開中。詳しくはこちら

photo: Kazuharu Igarashi / text: Ryota Mukai / edit: Emi Fukushima

愛読書のメモ書きや付箋に、坂本龍一の面影を感じる

本を捨てるのではなくて、どこかに集めて、いろいろな人が閲覧できる、持っていかれちゃうといけないんで、共有できる空間を作ろうと考えたんです。うちに置いておかなくても、僕がまた読みたくなったら、その場所に行けばいい」とは、かつて坂本龍一が語った〈坂本図書〉についての言葉。彼の蔵書を集める図書館として生前から準備が進み、2023年に開館したその場所へ向かった。

といっても、所在地は非公開。ウェブで入室予約をして得た住所をあてに訪れると、味わいある錆(さ)びついた扉が待ち受けていた。

坂本図書の扉

入って右手のカウンターで荷物を預け、〈坂本図書〉での過ごし方のルールが書かれている「代本板」を借りる。名前の通り「本の代わりの板」で、本棚から本を取り出す時、代わりにこの板を差し込み、元に戻す時の目印として使用するのだ。

〈坂本図書〉での過ごし方のルールが書かれている代本板
図書空間「坂本図書のルール」
当施設はみなさまへのスムーズなご案内と心地良い時間をお過ごしいただくためのルールを設けています。ご来場前にご一読いただきますようお願いいたします。・予約時に表示される利用規約、室内に掲示されたその他ルール及びスタッフの案内に従ってご利用ください。・室内での撮影(書籍の表紙や背表紙も含む)及び当施設の所在地が特定される写真の撮影又は情報の伝達は禁止です。・入室時に荷物をお預けいただきますようお願いしております。貴重品はご自身で管理をお願いします。お預かりした荷物の盗難、紛失、毀損等による損害が生じた場合であっても、当方の故意又は重大な過失による場合を除き、当方がお支払いする損害賠償金は5,000円を限度とします。・本施設はワンドリンク制です。ご利用時間内にカウンターでのご注文をお願いいたします。・時間内にお戻りの予定であれば途中の入退室は可能です。その際はカウンターまでお声がけください。・本は一冊ずつお楽しみください。・代本板は取り出した本の場所に置き、読み終わった後は元の場所にご返却いただきますようお願いいたします。・室内での通話は禁止です。一時退室の上、通話してください。・室内は全面禁煙です。・書籍やグッズの販売をご用意しております。購入をご希望の方はご利用時間内にご購入いただきますようお願いいたします。・本ルールに違反した場合、退室していただくことがあります。あらかじめご承知おきください。

蔵書は和書と洋書で大きく分かれ、それぞれ哲学、文学、歴史、言語、芸術・美術などジャンルごとに分類され並ぶ。棚をつぶさに見ていくと、ルソーやニーチェの分厚い思想・哲学書から、夏目漱石全集、大江健三郎の単行本、大型の絵本『マップス』など幅広いラインナップ。往復書簡の本や対談本を共に作った作家・村上龍の著書が差してあるのを眺めていると、背表紙を通して人物相関図が浮かび上がってくるようでもある。

本を開けば、付箋が付いているものあり、『家庭でできる自然療法』のようにページの端が折られているものがあったり、『仏教音楽』に至ってはメモ書きが残されていたりと、読書の痕跡が随所に現れる。蔵書のほか、坂本の著書やツアーパンフレットも閲覧可能だ。

読み、聴き、飲み、買う。ここは図書室のみにあらず

お楽しみは、読むことだけではない。耳を澄ませば、かつて監修した〈EASTERN SOUND FACTORY〉のスピーカーから流れる坂本の作品が聞こえてくるし、ドリンクには〈フグレンコーヒーロースターズ〉のコーヒーや、〈エンティー〉のお茶など、坂本が愛飲したものが。さらに、たびたび協業したグラフィックデザイナー・長嶋りかこによるカレンダー(4500円)や、自宅やスタジオで愛用したという〈TEMBEA〉のブックトートの〈坂本図書〉仕様版(1万9800円〜)などのオリジナルグッズを買うこともできるのだ。

また、ブックレーベルとして『坂本図書』をはじめとする本を刊行し、公式HPで登録できるニュースレター「Sakamoto Library Letter」も随時発行。これまでに吉本ばななや蓮沼執太をはじめ、坂本ゆかりの面々が文章を寄せている。

かつて「読みたくなったら、その場所に行けばいい」と語った通り、坂本はオープン以前に足を運び、今も残るレザーの椅子に腰を下ろして本棚を眺めたという。読み込んだ跡が残る蔵書とともに、その面影が随所に感じられる空間なのだ。

ブックレーベル〈坂本図書〉から出た3冊

BRUTUS1022号「わたしが知らない坂本龍一。」のバナー