はまの(桜木町)
ばばあは自分のことをばばあという。だから僕もばばあをばばあと呼ぶ。「ばばあ」は「おふくろ」みたいで照れ臭いが、いつだって男は甘えるために酒を飲む生き物だ。ばばあの店にはメニューも何もない。「家」なんだから当たり前だ。ネットで検索しても出てこない。店名も最近まで知らなかった。
カウンターに座ると、ばばあの昔話とともに酒と料理が出て来る。二、三千円しか払ったことはないが、飲み足りなかったことはない。梯子することが多い野毛では珍しいスタイルだ。おつまみはすべて手料理。たまに目の前で売り物の惣菜をあけているが、皿に盛り付けた瞬間に手料理だ。
居酒屋で細かいことを気にしていてはいい酒飲みになれない。関東の居酒屋ではあまり口にすることのできない東北の甘しょっぱい味付けが嬉しい。ばばあの訛丸出しのしゃべりも肴を美味くする。精がつくものが多いのはご愛嬌。次行ったときは「ただいま」と言ってやろう。