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斉藤壮馬の「ただいま、ゼロ年代。」第9回 Good Dog Happy Men『Most beautiful in the world』

30代サブカル声優・斉藤壮馬が、10代のころに耽溺していたカルチャーについて偏愛的に語ります。毎月20日更新。

photo: Natsumi Kakuto(banner),Kenta Aminaka / styling: Yuuki Honda(banner) / hair & make: Shizuka Kimoto / text: Soma Saito

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斉藤壮馬

本来ならば最初に彼らの音楽を紹介してもよかったくらい、長年にわたり影響を受けているバンドだ。
Good Dog Happy Men。
ファンタジックかつシニカルな歌詞とユニークな音楽的想像力に、中学生だったぼくは、がつんとやられたのだった。

最初に知ったのは、『ROCKIN'ON JAPAN』を読んでいたとき。
ヴォーカルでありコンポーザーの門田匡陽さんのインタビューが載っていて、その斜に構えつつもユーモアのある語り口が妙に気になった。

自分で調べてもよかったのだが、当時インターネットに精通している情報屋のような友人がいたので(これもまた中学生らしい甘酸っぱい思い出だ)、その人に頼み、彼らのことを追ってもらったのが懐かしい。

かつて下北沢にハイラインレコーズというインディーズを中心に扱うレコードショップがあって、たまに東京に行く用事があると必ず寄ったものだ。
そこで購入した彼らの2ndEP『Most beautiful in the world』は、今でもほとんどそらで全部歌えるくらい繰り返し聴いた。

ちなみに、このEPはハイラインレコーズで限定販売されたあと、DVDサイズで再販され、そちらには「Apple star storyS」という曲のライブテイクが収録されている。
ぼくはどちらも持っていて、実家に保管してあるのだが、今回の撮影では全国版を手配していただいた。ありがとうございます。

斉藤壮馬

どの曲も、愛と祝福と皮肉に満ちた素晴らしい楽曲たちだ。
昔の個人的なお気に入りは、M2「Bit by Bit」(16のグルーヴと幻想的かつ情けない歌詞の対比が絶妙)
M3「Pretty little horses」(頭のリフからラストに至るまでの物悲しさがたまらない)
M6「(can you feel?)〜Most beautiful in the world〜」(圧倒的多幸感に満ちたキャラバンソング、これぞグッドドッグ!)あたりだった。

だが今回聴き直してみて、自分の楽曲制作において一番影響を受けているのは、M4「Perfect nervous」なのかもしれないな、と思った。
この曲は、全体を空想的なムードが覆う今作において、唯一彼らの前進バンドであるBURGER NUDSのようなひりつきを感じる楽曲だ。
虚構でコーティングした隙間から、否応なしに顔を覗かせる現実が、生々しくも胸に刺さる。

中高生のころ、なぜグッドドッグやアーケイド・ファイアのような楽団的なバンドにあれほど惹かれていたのか、今となってはよくわからない。
ここではないどこかに行きたい、連れていってほしいという切実な思いを抱いていたからだろうか。

その感覚は25歳くらいまで強烈にあったが、それ以降は年々ゆるやかに薄れていっているような気がする。
それは生きやすくなるということかもしれないが、どこか寂しく感じている自分もいる。

もう失ってしまったものや、失いつつあるものを少しでも取り戻すために、あるいは遠く懐かしむために、これからもぼくは、このEPを聴き続けるのだと思う。

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