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斉藤壮馬の「ただいま、ゼロ年代。」第8回 『灰羽連盟』

30代サブカル声優・斉藤壮馬が、10代のころに耽溺していたカルチャーについて偏愛的に語ります。毎月20日更新。

photo: Natsumi Kakuto(banner),Kenta Aminaka / styling: Yuuki Honda(banner) / hair&make: Shizuka Kimoto / text: Soma Saito

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第8回 『灰羽連盟』

『灰羽連盟』を持つ斉藤壮馬

空の中を落ちていく一人の少女。彼女は繭の中で、夢を見ている。
眠りから醒めた少女は、ラッカという名前と灰色の羽、そして光輪を与えられ、灰羽たちの暮らす「オールドホーム」で生活をすることになる。
自分を見つけ、名前を与えてくれたレキや、クウ、カナ、ヒカリ、ネムといったオールドホームの面々との交流の中で、ラッカは次第に世界の秘密に近づいてゆく……。

今回語りたいのは、アニメ『灰羽連盟』。
イラストレーター・漫画家として活動されている安倍吉俊さんが、自身の著作である『オールドホームの灰羽達』をもとに、原作・シリーズ構成・脚本を務めたアニメだ。

安倍吉俊さんといえば、以前連載でも取り上げた滝本竜彦さんの『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』の表紙イラストや、アニメ『NieA_7』『serial experiments lain』にも関わっていらっしゃる方。
安倍さんの描く世界がたまらなく好きで、多分に影響を受けている。退廃的で、でもどこかあたたかみのある雰囲気に、10代のころの不安定な自分は、救われていたのだと思う。

斉藤壮馬

さて、救いというならば、まさしくこの『灰羽連盟』は、救いと赦しの物語であるといえるだろう。

ラッカが暮らしていくことになるグリの街は、高い壁に覆われ、トーガと呼ばれる人々か鳥しか外に出ることができない。街の人口の大半は普通の人間で、灰羽はごく少数だ。彼女らは「使い古したもの以外を使ってはいけない」など独自のルールを持っており、特異な存在として描かれる。

序盤は穏やかに、時にコミカルな雰囲気で進行していくこの作品。劇伴も背景美術も素晴らしく、美しい箱庭のような世界に仕上がっている。
灰羽は仕事をし、他者の役に立つというルールがあるため、ラッカは仲間たちの仕事を順番に手伝い、それぞれと交流を深める姿は、観ていて心が安らぐことこの上ない。

だが、中盤で起こるあることをきっかけに、物語は大きく変容していく。
ぼくとしてはむしろ、ここからの展開にこそ心を鷲掴みにされてしまった。何気ない表情やセリフの一言に、熱いものが何度も込み上げてきた。

いくつかの方法で視聴可能な作品だが、最初はぜひネタバレなしでじっくり観ていただきたい。そして、最後までたどり着いたあと、もう一度頭から観てみてほしい。初見時とは違うカタルシスを感じられること請け合いだ。

余談だが、『灰羽連盟』が好きすぎて、以前「ワルツ」という楽曲を作った。もちろんそのままストレートに表現しているわけではないが、淡く儚い灰羽たちの物語に触発されたのは事実だ。もしお時間がありましたら、作品と共に聴いていただけますと幸いです。

作中、季節は夏から雨季を経て冬へと移り変わる。ちょうど今回は、年末年始を跨いで視聴した。
冬の冷たい空気を感じながら、ああ、やっぱり自分はアニメが大好きだ、と素朴に思った。今年はもっとアニメをたくさん観る年にしよう。そんな決意を新たにした、豊かな冬休みだった。
さあ、そろそろぼくも眠りから醒め、生活を始めることにしよう。2023年も、何卒よろしくお願いいたします。

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