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斉藤壮馬の「ただいま、ゼロ年代。」第6回 滝本竜彦『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』

30代サブカル声優・斉藤壮馬が、10代のころに耽溺していたカルチャーについて偏愛的に語ります。毎月20日更新。

photo: Natsumi Kakuto(banner),Kenta Aminaka / styling: Yuuki Honda(banner) / hair&make: Shizuka Kimoto / text: Soma Saito

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声優・斉藤壮馬

『チェンソーマン』も『サイバーパンク:エッジランナーズ』も大好きだが、ぼくにとってチェンソーでエッジといえば、やはり『ネガディブハッピー・チェーンソーエッヂ』なのである。

10代のころ、青春小説が好きで、同時に嫌いでもあった。自分と同年代の彼ら彼女らに感情移入していながら、一方で、現実にはこんなドラマは訪れないんだとシニカルぶってみせる。そういう鬱屈とした暗い情動を持て余していた。

滝本竜彦さんの作品に最初に触れたのは、実は今回選んだものではなかった。『NHKにようこそ!』という凄まじいインパクトのタイトルを冠したその小説(とアニメと漫画)についても、いずれ語る機会があるかもしれない。

しかし今回は、『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』だ。
目的もなく怠惰な日々を過ごしていた高校生・山本陽介はある日、雪の降る寒い夜に、不死身のチェーンソー男と戦う女の子・雪崎絵理と出会う。その日から、退屈だった山本の日常は大きく変わることになる……。

と書くと、いかにも壮大でドラマティックなストーリーのようだが、実際に読み進めていくと、物語はそう思い通りには進まない。
悪友・渡辺と万引きをしたり、テストの点数が落ちすぎて説教をくらったりと、山本の日々はどこか冴えなくて、悶々とさせられる。
ヒロインである絵理ちゃんとの関係もなかなか進展せず、初読時にはやきもきしながら読み進めたのを覚えている。

声優・斉藤壮馬

けれど、それでいいのだ。いや、それがいいのだ。
最後まで読んだとき、泣いていた。泣かされたくなんてないと反抗しながら、みっともなくぼろぼろ泣いた。悔しかった。
ぼくはもちろん山本ではない。でも、彼が走り抜けた、このあまりにも青すぎる物語に、打ちのめされてしまったのだ。

そのときは、なぜ悔しがりながら泣いてしまったのか、自分でもよくわからなかった。
だが久々に読み返してみて、ものすごく単純な結論に辿り着けた。
羨ましかった。
格好よかった。

格好つけない格好よさ。あのころ本当は、素直に、取り繕うことなく、恥ずかしくダサい気持ちを表現したかった。でもできなかった。
斜に構えて、自分だけが世界のことを理解しているように振る舞うことで、ぽっきり折れそうな心を守っていたのだと思う。

30を過ぎた今、感じたままに文章を書いてみようとしたけれど、この小説のように剥き出しにはなれそうもない。
本の最後に、滝本さんのあとがきが記されている。そこに今回ぼくが感じたことのすべてが書いてあった。
だから、連載でこんなことを書くのはとてもずるいけれど、ぜひ皆さまにも実際に読んで、感じてみていただきたい。

今となってはもうおぼろげで、どこか他人事のような気もする。
でも確かにあのころ、ぼくは山本のように、絵理ちゃんのように、この小説のように、何かと戦っていた。
それは不死身のチェーンソー男だったかもしれないし、もっと別の、哀しみや怒りを生み出す何かだったかもしれない。
昔の親友に会えたみたいな、こそばゆくも懐かしい気持ちになった、そんな冬の夜だった。

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