斉藤壮馬の「ただいま、ゼロ年代。」第42回 Death Cab For Cutie『Plans』

声優・斉藤壮馬が、10代のころに耽溺していたカルチャーについて偏愛的に語ります。

photo: Kenta Aminaka / hair&make: Shizuka Kimoto / text: Soma Saito

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Death Cab For Cutie『Plans』

デス・キャブ・フォー・キューティー——そこはかとなく不穏な雰囲気の漂うバンド名だが、その音楽は優しく、あたたかく、美しい。今回は、そんな彼らの名盤『Plans』を紹介したい。

1997年にアメリカはワシントンのベリングハムで結成された彼らデスキャブは、確かなソングライティングと地に足のついた活動で支持を集め、全世界に熱烈なファンを持つバンドである。

彼らのことを知ったのは、ネットで海外の音楽を聴きあさっていた中学生のころ。今回紹介するアルバム『Plans』のM10「Brothers On a Hotel Bed」を聴いたのが最初だった。

しめやかなピアノが1分ほど繰り返され、控えめなバンドサウンドが徐々に重なっていく。ベン・ギバード氏の憂いを帯びた歌声と、訥々と紡がれる暗喩に満ちた歌詞が素晴らしく、何度聴いても涙が滲んでしまう。

サビの最後の歌詞「Like brothers on a hotel bed」というフレーズがとにかく好きだ。一読するとややわかりづらい表現かもしれないが、歌詞の流れの中で、歌と共に聴くとその言わんとすることが痛いほど伝わってくる。

この曲の主人公たちはもう冷めた関係性になっていて、きっと離れてしまうだろうと感じている。だから、「ホテルのベッドの上の兄弟のように」、一番近くて一番遠いところにいる。

もしかしたら、どこかで何かが違っていたら、そうはならなかったのかもしれない。でも、もう遅い。すべては決定的にすれ違ってしまったのだ……。

デスキャブの曲には切なくて哀しい曲がたくさんあるけれど、中でもぼくはこの曲のエモーションに強く心を揺さぶられる。いつかどこかで感じた痛みを想起させられるからかもしれない。

またこのアルバムには、彼らを代表するような名曲が多数収録されている。

メロウかつタイトなグルーヴで聴かせるM2「Soul Meets Body」。
引き算のアンサンブルで魅せるM3「Summer Skin」。
おそらくもっとも有名で文句なしの大名曲のM5「I Will Follow You Into the Dark」。
彼らの得意とするザ・ミドルテンポチューンであるM8「Crooked Teeth」。
そして冒頭のアルペジオがあまりにも美しいM9「What Sarah Said」。

とにかくどの曲も、決して壮大な何かが起こっているわけではなく、むしろ最小限ともいえる要素で構成されているにもかかわらず、だからこそどうしようもなく感じ入ってしまう。

たとえば夏の終わりの少し涼やかな空気の中や、あるいは冬のはじまりの肌と遊ぶ風を感じたときに、そっとそばにいて、包み込んでくれるような、そんな音楽だ。

これからの季節にぴったりな曲もたくさんあるので、もし彼らに興味を持っていただけたら、皆さまにも聴いて、感じて、浸ってみてほしい。ライブテイクも素晴らしいので、そちらもあわせてぜひ。

ちなみにぼくは休みの朝に掃除をするとき、よく彼らの「The Sound of Settling」という曲をかける。めちゃくちゃ捗るのでこちらもおすすめです。

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