Arcade Fire『Funeral』

2004年、カナダのロックバンド・Arcade Fireの1stアルバム『Funeral』が発表された。その前年、2003年に出したEP『Arcade Fire』でもすでに注目されていたが、『Funeral』は全世界で圧倒的な支持を受け、彼らを一躍トップバンドへと押し上げた。
フューネラル——葬儀、葬式。いくつかの死を乗り越えてきた彼らが様々な思いを込めてそのタイトルをつけたのだと、当時CDについていたライナーノーツで読んだ記憶がある。
確かこのバンドは、中学時代に音楽や文学、サブカルチャーを教えてくれた友人Sくんからの紹介で知ったように思う。
たぶんSくんの家で「最近すさまじく格好いいバンドがいるんだ」と薦めてもらい、あまりにも気に入ったので自分でも購入した、というような流れだった気がする。
当時ぼくとSくんはバンドを組んでいて、1980〜2000年代の音楽的要素を混ぜこぜにしたような楽曲をやりたいと思っていた。
当時、Good Dog Happy Menさんに多大なる影響を受け、楽団のような要素を持つバンドが好きだと言っていたぼくに、彼がアーケイド・ファイアを聴かせてくれたのもさもありなんといったところだ。
バンドの中心人物であるフロントマンのウィン・バトラーが、もう一人の創設メンバーであるレジーヌ・シャサーニュと出会い結成されたアーケイド・ファイア。
メンバーは流動的で音楽性は多岐にわたり、彼らを一言で説明するのは難しい。だがこの1stに関していうならば、まさに「旅する楽団」という表現がぴったりだろう。
世界各地を旅しながら、その土地でしか鳴らせない音を、その土地の人々も巻き込んで奏でていく。そんなイメージだ。
多人数のメンバーが楽器を取り換えながら演奏する曲はどれも歌心があり、詩情があり、ベッドルームの内省とオーケストラのような広がりをあわせ持っている。
最初に聴いてから今も変わらず大好きなのがM2「Neighborhood #2 (Laïka)」。冒頭の極限まで削ぎ落とされた引っ掻くような音と異国情緒漂うイントロ、切実かつ美しいアンサンブルのサビは何度聴いてもたまらない。

それから、M10「In The Backseat」。こちらは幽玄とでもいうべき荘厳な楽曲で、彼らのオーケストレーションの巧みさに舌を巻く。
そしてなんといってもこの曲は外せない。M7「Wake Up」である。彼らの中でもおそらく一番有名な曲であり、ライブで演奏が始まろうものならとんでもなく熱狂的な大合唱が巻き起こるだろう。一度生で聴いてみたいものだ。
また、このアルバムは「紙ジャケ」という形状でリリースされていて、いわゆる通常のプラスチックケースではなく、まさしく紙を用いてジャケットが作られているので、その分コストもかかるし管理も面倒である。
けれど、最初に手にとって恐る恐るCDを取り出し、ジャケットを撫でたときのあのえもいわれぬ感動は忘れることができない。そういえば、あれが人生で初めて買った紙ジャケのCDだった。
最後に余談だが、昔買ったCDにはアルバム本編以外にボーナストラックも1枚ついていて、そこに入っている「Brazil」という曲がなぜか妙に好きだった。
こちらはおそらくサブスク等では配信されておらず(カバー曲というのもあるのかも)、そういったフィジカルメディアだからこそ聴ける曲というのも、またいいものだよな、と思う秋の夜長だった。