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斉藤壮馬の「ただいま、ゼロ年代。」第40回 The Departure『Dirty Words』

30代サブカル声優・斉藤壮馬が、10代のころに耽溺していたカルチャーについて偏愛的に語ります。

photo: Natsumi Kakuto(banner), Kenta Aminaka / styling: Yuuki Honda(banner) / hair&make: Ayami Sanda / text: Soma Saito

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The Departure『Dirty Words』

声優、斉藤壮馬のポートレイト

中学生のころ、洋楽を聴きはじめてからすぐに、教えてもらうばかりでなく自分でも開拓したいと思い、2枚立てつづけにCDを買った。

最初に買ったのはRoosterという新人ハードロックバンドの1stアルバム『Rooster』。

M1「Joyride」やM2「Come Get Some」など、スタジアムロック的な要素を持つバンドで、ギターの格好よさが印象に残っている。

というか、今書いていて初めて気づいたが、てっきり彼らのことをUSのバンドだと思っていたけれど、UKのバンドだったのか。もう一度じっくり聴き返してみよう。

次いで買ったのが、今回紹介するThe Departureの1stアルバム『Dirty Words』だ。ルースターとは打って変わって、いかにもポストパンク的な乾いた音像が魅力的な一枚である。

まずジャケットのダークな雰囲気に一目惚れして購入したのだが、M1「Just Like TV」からして大好物だった。

当時のポストパンク(リバイバル)のバンドは、たとえばBloc Partyなども、暗い音づくりでありながら思いの外メロディアスな部分も持っていて、そのバランスが刺さったのを覚えている。

アルバムの中だと、M9「Be My Enemy」などもライブで聴いてみたいと思わせるウェルメイドな曲だ。

ただ惜しむらくは、全11曲が比較的似た方向性の楽曲であること。これが半分くらいのEPだったらもっと衝撃的だったかもしれない。

声優、斉藤壮馬のポートレイト

そんな中でもだんとつでお気に入りなのがM2「Talkshow」。3分で駆け抜けていくアルバム中最速の楽曲だ。

まずイントロの引っ掻くようなギターがもうたまらない。的確にリズムを刻むベースとドラムに乗ってやや痙攣気味に放たれる歌も格好いい。

当時一緒にバンドをやっていたSくんは、ルースターとザ・デパーチャーだと後者の方が断然好きだと言っていたが、当時まだまだメジャー志向のあったぼくは、どちらかというと前者の方が好みだった。

だが1年、2年と時が流れるにつれ、ぼくもどんどんポストパンク・ニューウェイヴ的な音楽に傾倒していった。

結果として、20代のころはむしろ、ルースター的なスタジアムロックをなるべく避けていた。そしてさらに時が経ち、30代の今、結局どっちも格好いいじゃん、という気持ちになっている。

思えば中学生のころは、目の前に二択が提示された際、どちらかを選びどちらかを捨てなければならないと、なかば強迫観念のように思い込んでいた。

もちろん実際そういうシチュエーションもたくさんある。けれど一方で、どちらも好き、どちらも最高、でなんの問題もない場合もある。

それはちょっとずるい考え方かもしれないが、そういうふうに柔軟にものごとを捉えられるようになったというのは、なかなかいいことなのではないかと思う。

そういえば余談だが、「Talkshow」の性急なビートが何かを彷彿とさせるよね、と中学当時Sくんと話題になり、色々聴き直した末に、Bauhausというイギリスのポストロックバンドの「Dive」だ!という結論に至った。

そうやって、粗探しをするのではなくて、これとこれが似ているかも、影響を受けているのかな、じゃあこれはどうだろう?発想を組み合わせてみよう!と熱っぽく語ったあの日々を、ぼくはこれからも忘れることはないだろう。

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