People In The Box『Frog Queen』

好きな人の好きなものを好きになる……というと、恋愛的な甘ずっぱい話のようにも思えるが、ちょっと違う。
あるアーティストを好きになり、その人(たち)のルーツとなる音楽を遡って聴いていくような体験は、多くの方がしたことがあるのではないだろうか。
たとえばぼくはART-SCHOOLを好きになり、ヴォーカル・木下理樹(きのしたりき)さんの好む音楽を夢中になって調べたものだ。
エリオット・スミスとの出会いもそうだし、今回紹介するバンド・People In The Boxとの出会いもそうである。
……と書いてみたのだが、実際のところ彼らの音楽を初めて聴いたのがいつだったか、いまいち思い出せない。
ART-SCHOOLのギター・戸高賢史(とだかまさふみ)さんがピープルのどれかの作品に推薦コメントを書いていた記憶があるから、まったくの別ルートではないと思うが、定かでない。
確かなのは、彼らの活動のかなり初期から聴いていて、そのポップネスとひねくれの同居した唯一無二のサウンドに撃ち抜かれていたということだけだ。
1stミニアルバム『Rabbit Hole』のリード曲「She Hates December」の、美しくゆらぎのある曲構成。歌声も歌詞も、自分が当時やりたいと思っていた音楽性に近く、何度も繰り返し聴き込んだ。

今回紹介するのは『Frog Queen』。2007年リリースの、彼らの1stアルバムだ。
M1「はじまりの国」からして、よりタイトに、かつオープンになった演奏が、彼らの新章の幕開けを告げる。
そのままの勢いで駆け抜けるM2「水面上のアリア」、ピープル一流のシニカル·ミドルテンポソングM3「犬猫芝居」と畳みかけ、M4「バースデイ」からの中盤はメロウな楽曲が続く。
そしてM7「六月の空を照らす」。このアルバムでは、というかピープルの全楽曲の中でもトップクラスに大好きな曲だ。
不穏なアルペジオと変拍子、ポストロック、マスロックの文脈で進行する楽曲は、サビでいきなりひらかれる。まさしく「六月の空を照らす」ような切実なメロディが、曇天を刹那だけ切り裂くみたいに。
個人的には、この曲を聴くと毎回、某学園オカルトRPGを思い出す。退廃的な雰囲気や哀しみをはらんだストーリーが、この曲の情動とマッチするからだろう。
今回久しぶりに聴き返して思い出したのは、自分は高校生くらいまで、いや、20代の半ばくらいまで、「世界の終わり(終末感)」と「(過剰な)センチメンタリズム」にものすごく拘泥していたな、ということ。
自分が曲や文章を書く際にも、いかにそれらの要素を取り入れることができるかに執着していた。だからこそ彼らの音楽にもあんなに惹かれていたのかもしれない。
ちなみにその他の曲では「逆光」などが好きで、やはり彼らの楽曲の、複雑なことを平気な顔でやっておきながらサビはとことんポップ、というバランス感覚がいっとう好みなのだと思う。
奇しくも今日は曇り空。自宅作業日のお供は、People In The Boxにしようと決めた。