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斉藤壮馬の「ただいま、ゼロ年代。」第37回 The Vines『Winning Days』

30代サブカル声優・斉藤壮馬が、10代のころに耽溺していたカルチャーについて偏愛的に語ります。

photo: Natsumi Kakuto(banner), Kenta Aminaka / styling: Yuuki Honda(banner) / hair&make: Shizuka Kimoto / text: Soma Saito

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The Vines『Winning Days』

ロックンロール・リバイバルの時代には、何人ものスター候補たちが現れ、あるものはその地位を確かにし、またあるものは静かにステージから去っていった。

中でも強く心に残っている音楽家がいる。クレイグ・ニコルズ——The Vinesというバンドのフロントマンにしてキーマンである。

オーストラリアのシドニーで結成されたヴァインズは、何枚かのシングルとEPを経て、2002年に1stアルバム『Highly Evolved』で一気にブレイク。リードソング「Get Free」はおそらく、今でも彼らの曲の中でもっとも有名な一曲だろう。

ノイジーかつ攻撃的な曲に荒々しいシャウトと、グランジやサイケの影響を感じさせる一方で、醒めた美しいメロディも併せ持った稀有なバンドだ。

なんといってもVo.クレイグ・ニコルズのカリスマ性がすさまじい。ルックスも言動も生み出す曲も声も何もかもが、みずみずしい感性と苦しみの情動に引き裂かれんばかりである。

当時のレビューでは「ニルヴァーナ・ミーツ・ビートルズ」という文句で紹介されたこともあるほど、彼らの音楽は魅力を放っていた。

そんな彼らの曲を初めて聴いたのが、今回紹介する2ndアルバム『Winning Days』だ。どちらかといえば1stの方が評価が高い気がするが(ヤング・バンドの常である)、ぼくとしてはこちらのアルバムの方が色濃く印象に残っている。

彼らのことを知らずに表紙の何やら不穏な雰囲気が気になって購入したそのアルバムは、まずM1「Ride」からしてどストライクだった。

引っ掻くようなコードのみのギターリフに、歌というより唸りに近いクレイグの声。そのまま気怠げなヴォーカルが淡々と言葉を紡ぎ、サビでいきなりメロディアスに叫ぶ!

ポップネスとラウドネス、そして絶妙なローファイ感が共存する、混沌の中に一筋の光を探すような名曲だ。

続くM2「Animal Machine」も実に素晴らしい。乾いた短音リフからM1よりもさらに投げやりな歌……と思ったのも束の間、バンドインからのシャウトが気持ちよくも耳を突き刺す。

かたやM4「Autumn Shade Ⅱ」では陰鬱かつ耽美な世界を展開し、M8「Rainfall」ではエヴァーグリーンなハーモニーを響かせる。

そして今作のフェイバリットソングがM6「Winning Days」。アルバムタイトルにもなっているところからも、バンドの自信のほどがうかがえる。

アコースティックギターのアルペジオに息成分多めの歌と多重コーラスに包まれる冒頭からすでに多幸感たっぷりである。

1stアルバムのM5「Homesick」にも似た質感だが、こちらの方がより成熟しているというか、諦念すらも包み込むようなあたたかさを感じる。

この曲を聴くと、初めて聴いた中学生のころのことを思い出し……はなぜだかしない。それよりも、最初に抱いた感覚がいつでも蘇ってくる。

ぼくは行ったこともない場所にいて、感傷的な気持ちになっている。でも、それは決して哀しいだけではないのだという、そんな不思議な感覚だ。

現代のバンド好きにもきっと刺さるだろう、シンプルかつ味わい深い一枚である。

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