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斉藤壮馬の「ただいま、ゼロ年代。」第33回 throwcurve『Retro Electric Mother』

30代サブカル声優・斉藤壮馬が、10代のころに耽溺していたカルチャーについて偏愛的に語ります。

photo: Natsumi Kakuto(banner), Kenta Aminaka / styling: Yuuki Honda(banner) / hair&make: Shizuka Kimoto / text: Soma Saito

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throwcurve『Retro Electric Mother』

斉藤壮馬

この連載で紹介してきた音楽は、いずれも自分が深く影響を受けたものたちであり、各曲にもそれが色濃く反映されている。

今回も、10代のころから今まで繰り返し聴きつづけ、多大な影響を受けているバンドについて語ろうと思う。

throwcurveという名前にピンとくる方の中には、ぼくと同世代の方も多いだろう。2001年に結成され、2011年に活動を凍結するも、2024年に再始動したバンドである。

しかも嬉しいことに、活動再開とともにサブスクリプションでの楽曲配信が解禁された。個人ラジオで勝手に熱弁を振るうくらい嬉しかった。ありがとうございます。

最初に聴いた曲はたしか「連れてって」か「ステレオ」で、性急なビートと絡み合うツインギター、独特なコード感とどこか投げやりなようでいて熱いボーカル、そのどれもに一聴して心を鷲掴みにされた。

しかし当時山梨に住んでいたぼくはなかなかCDを手に入れられず、念願叶ってやっと手に入れたのが、アルバム『Retro Electric Mother』だった。

M1「hello」は短いイントロトラックで、M2「ノーモア」からが実質的な幕開けである。まずこの曲からして、先述の個人的なthrowcurve好きポイントが全部詰まっている。さりげないシンセの入れ方など、自分の曲でも取り入れたい絶妙なバランスだ。

次いでM4「無音ノート」。作中屈指の名曲である。入り口はかなり抑制されたビートから始まり、引き算のタイトな演奏が続く。そこからサビで一気に世界が広がり、切実なメロディが胸をつく。彼らの楽曲としてはシンプルなコードだが、逆にそれがよりぐっとくる。

そしてソリッドなインストナンバーM5「ghost note」、やけっぱちで繊細なM6「ハッピー」を挟み、M7「レム」。ミドルテンポで、彼らならではの灰色なムードと端正なポップネスが同居する楽曲だ。他の曲もそうだが、この曲は特に歌詞も素敵で、ぜひ歌詞も味わいながら聴いていただきたい。

個人的には上記3曲がとりわけ印象に残っているが、どの曲もまさにthrowcurve節とでもいうべきユーモアと諦念の危ういバランスをはらんでいて心地よい。

M9「841」、M10「ベッドタイマー」などは、展開、メロディともにゼロ年代の下北沢界隈の退廃感を思い出し、聴くたびにあのころに戻れるような気がしている。

そういえば、これも本当に個人的な見解なのだけれど、最初に書いた「連れてって」「ステレオ」を聴くと、同時代のバンドであるThe Libertinesのギターアンサンブルをなぜだか強く思い出してしまう。

決してハードで高音圧なわけではない、むしろ真逆の隙間だらけの音像が、あのロックンロールリバイバルの時代に求められていたのかもしれないな。ふとそんなことを考えた散歩道だった。

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