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斉藤壮馬の「ただいま、ゼロ年代。」第3回 漆原友紀『蟲師』

30代サブカル声優・斉藤壮馬が、10代のころに耽溺していたカルチャーについて偏愛的に語ります。毎月20日更新。

photo: Natsumi Kakuto(banner),Kenta Aminaka / styling: Yuuki Honda(banner) / hair&make: Shizuka Kimoto / text: Soma Saito

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斉藤壮馬の「ただいま、ゼロ年代。」第3回 漆原友紀『蟲師』

季節の変わり目や雨の降る午後に、ふとこの作品のことを思い出す。

中学生のころ、よく祖母の買い出しの手伝いをしていた。できた孫だったわけではない。荷物持ちをすると、好きな本を1冊買ってもらえたのだ。

安部公房氏の『壁』や時雨沢恵一さんの『キノの旅』など、そのとき買ってもらって今でも大好きな作品がたくさんある。

中でもとりわけ夢中になったのが、漆原友紀さんの『蟲師』である。

鎖国が続いた日本のような、あるいは江戸と明治のあいだにもうひと時代あるような世界で、「蟲」と呼ばれる存在と相対することを生業とする「蟲師」たちの物語。人々は独自の理を持つ蟲たちに翻弄され、それでも日々を生きていく。

主人公であるギンコは、蟲師でありながら蟲たちを敵だと捉えず、それぞれの領分で暮らせればいいと考えている特異な存在だ。壮大で残酷、ユーモラスかつあたたかい作風が、とにかく心に染みた。

斉藤壮馬

小さいころは野山を駆け回り、釣りや石集め、秘密基地づくりなどに熱中した。それから、「どこかに不思議なことがないだろうか?」と常に考えているような子供だった。

その気質は今でもあまり変わっていないと思いたいが、年齢を重ねるとともに、当時のような身軽さは失われてしまった。それでも『蟲師』を読むと、意識は肉体のくびきを逃れ、時空を超えた旅が始まる。

祖父と一緒に虫取りに行った、夏の夜の裏山。

友人たちと一緒にはまり、ギンコのセリフ「原因は蟲ですな」を多用した中学時代。

深夜にアラームをセットし、毛布にくるまってリアルタイムでアニメ版を観たあの冬の夜。

いつか、どこかで触れたような記憶のかけらに、もう一度出会わせてくれる。それがたまらないから、ぼくはこれから先も、繰り返し『蟲師』の世界に帰ってくるのだろう。

ちなみに、漆原先生の商業作品はあらかた持っていて、『フィラメント〜漆原友紀作品集〜』『水域』『猫が西向きゃ』のいずれも素敵な作品なので、興味を持たれた方にはこれらも強くおすすめいたします。

そういえば、ぼくは『蟲師』に出会った中学生のころから前髪を伸ばしはじめたのだが、それは間違いなく、BUMP OF CHICKENの藤原基央さん、Bloc Partyのラッセル・リサック氏、そして『蟲師』のギンコからの影響であると言って差し支えない。同じく影響を受けた中学時代の友人とふたり、「鬼太郎」「ミスターバングス」と呼ばれていたのを覚えている。げに懐かしき、いにしえの記憶だ。

いやはや、いい話ふうに締められそうだったのに、なぜ最後にふざけなければ気がすまないのか。照れ隠しか、はたまた3回目なので変化球が欲しくなったか。

たしかなことはわからない。わからないが、おそらく——

原因は、蟲ですな。

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