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斉藤壮馬の「ただいま、ゼロ年代。」第28回 『秒速5センチメートル』

30代サブカル声優・斉藤壮馬が、10代のころに耽溺していたカルチャーについて偏愛的に語ります。

photo: Natsumi Kakuto(banner), Kenta Aminaka / styling: Yuuki Honda(banner) / hair&make: 夢璃 / text: Soma Saito

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『秒速5センチメートル』

テレビから流れてくる美しい映像に、ただ惹き込まれたのをよく覚えている。
秒速5センチメートル——それが桜の花びらが散る速度のことなのだと、初めて知った。

いつのことだったか、眠れない夜にテレビをザッピングしていたら、とんでもなく綺麗なアニメーション作品が放送されていた。

タイトルも監督も何もかも知らないまま息をのみ、急いで上の妹の部屋に駆け込んだ。「めちゃくちゃいい雰囲気のアニメがやっているから一緒に観よう」。そんな声をかけた気がする。

新海誠監督により2007年に発表されたこの作品は、「桜花抄」「コスモナウト」「秒速5センチメートル」の3つからなる連作短編で、多くの方に根強く支持されている傑作だ。

当時10代で、思春期真っ只中だった自分が、この物語にはまらないわけがなかった。ストーリーは1990年代の東京の小学校から始まり、登場人物らの交錯する人生がポエティックに語られていく。

前回の『ハチミツとクローバー』の際にも書いたが、この作品もまた、観る年代によって感じ方が大幅に変わってくるだろう。ぼくは10代のころに、おそらく自分が一番この物語を必要としていたあのころに観ることができて、とてもありがたかった。

個人的には2作目の「コスモナウト」がもっとも好きだ。
種子島を舞台に、地元の高校生・澄田花苗(すみたかなえ)と、東京からの転校生・遠野貴樹(とおのたかき)の人間模様が描かれるこのエピソードは、なんといってもむせかえるような夏の描写が素晴らしい。

そもそも夏、そして青春を描いている物語がとにかく好きで、たとえば今までに紹介した『さよなら妖精』(第10回)や『絶対少年』(第16回)などもそうである。簡単には乗らせてくれない波や、陽の沈んだあとの帰り道……思い出しただけで胸がきゅんとする。

監督である新海誠氏はこのあと、ファンタジックな冒険譚『星を追う子ども』、そして雨だれのように詩的な『言の葉の庭』を経て、大ヒット作『君の名は。』を世に放ち、日本のみならず世界的に評価されていく。それ以降のご活躍はあえて語るまでもないだろう。

個人的には『言の葉の庭』と『雲のむこう、約束の場所』がお気に入りなのだが、やはり最初に観た秒速のインパクトが忘れられない。もうどんな季節だったかも覚えていないけれど、あの短い時間、確かにぼくと妹は巡る四季を感じたのだ。

今観ると、主人公・貴樹のリリシズムがあまりにもピュアで、もう当時と同じような目線では没入しきれなかったのも事実だ。けれど逆に、その筆舌に尽くしがたい美麗な映像世界と、ひたむきに生きるキャラクターたちのいじらしさを、より愛おしく感じた。

世界の見方——まなざしというのは、どんなに確固たるものだと思っていても、刻一刻と変化してしまうものなのかもしれない。だからこそ、ある時期大好きだった作品を、時が経ってから観返すという行為が、ぼくはたまらなく好きだ。

たぶんそこには、今のまなざしならではの「好き」の発見があるはずだから。

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