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斉藤壮馬の「ただいま、ゼロ年代。」第13回 Mystery Jets『Making Dens』

30代サブカル声優・斉藤壮馬が、10代のころに耽溺していたカルチャーについて偏愛的に語ります。

photo : Natsumi Kakuto(banner), Kenta Aminaka / styling: Yuuki Honda(banner) / hair&make: Shizuka Kimoto / text: Soma Saito

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Mystery Jets『Making Dens』

声優・斉藤壮馬

2000年代初頭、ロックンロール・リバイバルという大きなムーヴメントがあったというのは以前も書いたが(連載第5回)、その中にはいくつものサブ・ムーヴメントもあって、そのうちの一つが「テムズ・ビート」だった。

ロンドン西部近郊のテムズ川、そこに浮かぶイール・パイ・アイランド(うなぎパイ島)を中心に盛り上がった一派のことを指し、Larrikin LoveやThe Hollowaysといったバンドが名を連ねている。ちなみにどちらもすぐに解散してしまった。

今回紹介するのは、そのテムズ・ビートの代表的な存在にして、今でも精力的に活動を続けているバンド・Mystery Jets。

彼らの1stアルバム『Making Dens』は、みずみずしい感性と老獪なユーモアに満ちた、不思議な聴き心地の一枚だ。メンバーは当時いずれも20歳前後と若く、フレッシュかつキャッチーなメロディに一瞬で心を奪われる。

しかし驚くなかれ、なんとギターを担当しているヘンリー・ハリソン氏(現在は脱退)は、キーボードのブレイン・ハリソン氏の実の父親なのだ!おそらくこのヘンリー氏のセンスによると思われるひねくれたポップセンスが随所に光っている。

声優・斉藤壮馬

一聴して耳を引くのはM2「You Can't Fool Me Dennis」やM5「The Boy Who Run Away」、M10「Diamonds In The Dark」、M11「Alas Agnes」あたりだろうか。青春のきらめきとほろ苦さが同居した、珠玉のキラーチューンたちだ。

しかしながら個人的には、変則的なリズムと絶妙な音作りが癖になるM3「Purple Prose」、あまりにも美しいコーラスワークが胸に沁みるM4「Soluble In Air」が特に好きで、何度も繰り返し聴いている。

すでにこの1stアルバムにもその萌芽があるが、ヘンリー氏脱退後の彼らは以降、80sポップスへの距離をさらに縮め、「Two Doors Down」や「Serotonin」、「Dreaming Of Another World」などの名曲を生み出している。

ただ、この『Making Dens』に漂うどこか不穏なサイケデリックさは、おそらくヘンリー氏のギター、アレンジセンスによるものだったのではないだろうか。そこはかとないプログレのかおりもたまらない。

アルバムを聴いていると、中学生のころを思い出す。Mystery Jetsは特に初期、DIY精神のあるバンドで、ギターやベース、ドラムといった一般的な楽器のみならず、どこかから拾ってきたような謎のアイテムを駆使し、まさにDEN——秘密基地を作るように音楽を奏でていた。

ぼくも当時バンドをやっていて、彼らのそのスタイルにひどく影響を受けた。バンドメンバーと自転車を走らせ、ショッピングモールを駆け回り、家の物置を物色し、これは楽器にできるんじゃないか?と、日々あれこれ熱く議論を交わしたものだ。泡立て器でドラム缶を叩いたり、おもちゃのピアノを改造したり……あのころ、すべてのものが楽器だった。

何度聴いてもきゅんとする、思い出深い名盤である。ちなみに余談だが、大学で彼らのコピーバンドをやったことがあって、そのとき演奏した「Half In Love With Elizabeth」という曲も名曲なので、ぜひ聴いてみていただきたい。

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