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斉藤壮馬の「ただいま、ゼロ年代。」第11回 オノ・ナツメ『リストランテ・パラディーゾ』

30代サブカル声優・斉藤壮馬が、10代のころに耽溺していたカルチャーについて偏愛的に語ります。

photo: Natsumi Kakuto(banner),Kenta Aminaka / styling: Yuuki Honda(banner) / hair & make: Shizuka Kimoto / text: Soma Saito

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オノ・ナツメ『リストランテ・パラディーゾ』

声優の斉藤壮馬とリストランテ・パラディーゾ

何回読んでも、上質な味わいに心が満たされる佳品だ。
オノ・ナツメさんの『リストランテ・パラディーゾ』について、今回は語りたい。

この作品にも本屋巡りのさなかに出会った。当時中学生で、表紙の雰囲気に一目惚れしてすぐに購入した。
オノ・ナツメさんといえば、頭身や絵のタッチを自在に使い分け、時代劇からBL、サスペンスから日常ものまで幅広く描かれる方だが、初めて手に取ったこの作品のことを、もっと妖しい内容なのだと勘違いした記憶がある。

それはひとえに、オノさんの絵特有の視線や口元の色気ゆえだろうけれど、わくわくしながらページをめくってみれば、そこには妖しさよりも、芳しく穏やかな世界が広がっていた。

21歳の女性・ニコレッタは、ほとんど自分の面倒を見てくれなかった母親へ物申すため、ローマへやってくる。
母の再婚相手が経営する、老眼鏡紳士たちの働くリストランテで見習いとして働くことになった彼女の、ささやかだけれど心地よい日々が、ゆったりとした筆致で綴られていく。

リストランテ・パラディーゾ——天国のレストラン。
読み終えたあと、なぜこのタイトルだったのかがじんわりと腑に落ちるような、素敵な作品だ。
魅力的なキャラクターばかりだが、個人的にはツンデレ(?)カメリエーレのルチアーノがいっとう好きで、巻末のエピソード「休日の昼食」での孫・フランチェスコとの会話にほっこりさせられる。

初読時から十数年経ち、ちょうど今のぼくの年齢は、娘ニコレッタと母オルガのあいだくらい。
以前よりはどちらの気持ちもわかる年頃になったものだなあとしみじみ感じた。

ちなみに、本作が気に入られた方は、世界観を同じくする『GENTE〜リストランテの人々〜』もぜひ読んでみていただきたい。
彼ら彼女らの日常が様々な形で物語られるので、もう少しだけこの世界を堪能したいと思ったならばおすすめです。

斉藤壮馬

オノさんの他作品にも、好きなものがたくさんある。
初期の『LA QUINTA CAMERA 〜5番目の部屋〜』や『Danza』などのハートフルストーリーはもちろん、今回は諸般の事情で題材には選ばなかったが、やりきれない哀しみにひと掬いの砂糖をまぶしたような傑作人間ドラマ『not simple』、アニメも最高だった『ACCA13区監察課』など、枚挙にいとまがない。
去年連載が始まった『THE GAMESTERS』も序盤から引き込まれっぱなしで、早く続きが読みたくてそわそわしている。

オノさんの紡ぐ物語ではいつも、言葉では明示しえない「ある関係性」が絶妙な塩梅で描かれているように思う。
中でも『リストランテ・パラディーゾ』は、親子や兄弟、同僚、家族など、いくつもの関係性が同時に共存していて、それが心地よい。
友人と食事をしたり、孫とのんびりしたり、恋人とデートをしたりしながら、登場人物たちはみな、あくせくすることなく自分の時間を生きている。

きっともっと歳を重ねて、味わいが変化してきたとしても、またこのお店=作品に立ち寄って、何気ない会話に耳を傾けたくなるのだろう。
そう思わせてくれる一冊だ。

そういえば、これも余談だけれど、この作品とオノ・ナツメさんの影響もあって、大学でイタリア語を1年間学んだのをふと思い出した。
とりあえず近いうちに、ワインの美味しいイタリアンのお店に行こう。そう心に決めた。

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