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富山・若鶴酒造内にある〈三郎丸蒸留所〉。ジャパニーズウイスキーの造り手の元を訪ねて

世界のウイスキー愛好家が注目する日本。呼応するかのように、各地で蒸留所が生まれ、熟成庫にはリリースを待つウイスキーがいる。本当に世界に比肩するウイスキーとなったのか?クラフトウイスキーを現在の地位へ押し上げた秩父蒸溜所、それに続く日本の造り手の元を訪ねた。

Photo: Motoko Takeda / Text: BRUTUS

「古き良き時代のアイラモルトを
目標に取り組んでいます」

蒸留所では2021年ウイスキー造りの最終盤。80ppmのウルトラヘビリーピーテッドで乾かされたアイラモルトを使ったウイスキー造りが行われていた。

「古き良き時代のアイラモルト、例えば74年のアードベッグは、クールなピート感がありながら麦芽の甘味もある。スモーキーなだけでなく、フルーティでジューシー。この時代の世界観をいつか再現できないかと思っているんです」

日本酒の苗加屋で親しまれる富山県・若鶴酒造内に三郎丸蒸留所はある。若鶴酒造5代目で、蒸留所のブレンダー・マネージャーの稲垣貴彦さんは、IT企業に勤めた後、2016年にこの地に戻った。

若鶴酒造は戦後の米不足の時代に、新たな酒造りを模索、貴彦さんの曽祖父である小太郎さんが1952年にウイスキー造りを始めた。

貴彦さんは、曽祖父の時代に作られたウイスキー原酒の帳簿を発見。それを飲み、シングルモルトウイスキー造りを思い立つ。

曽祖父時代のウイスキーを「三郎丸1960」という銘柄で限定155本販売。先祖のレガシーと、クラウドファンディングで募集した資金と合わせて、2017年に蒸留所を再興。18年にはマッシュタンを半世紀ぶりに更新。19年には稲垣さんが発明した世界初の鋳造ポットスチルを導入する。

「20年には発酵槽の1基を木桶に変更し、来年にはもう1基導入。叶うならば、酵母用設備も改修したいと思っています」

目標に向かって驚くようなスピードで突き進む。

「試行錯誤しながら一歩ずつ。ただ、少し近づいたかなと思うと、深めていくべき部分が見えてくる。まだまだ道半ばです。ゴールは良き時代のアイラモルトとは違うものになるかもしれない、でもおいしいものができると信じてウイスキー造りを続けていきます」

富山〈三朗丸蒸留所〉天然樽貯蔵庫
蒸留所内、天然樽貯蔵庫。他貯蔵庫より温度が高く熟成が速い。毎年募集していた一口オーナーの樽も並ぶ。5年後にボトリングされる。