坂本さんと一緒にものを作ってきた人たちに今も坂本さんが宿っている
坂本さんが実験的な人だと知ったのは、高校生の頃、YouTubeで見た、ASA−CHANG&巡礼のMV『影の無いヒト』。坂本さんは声の素材として参加していたんです」と話すのはサウンドアーティストの細井美裕さん。大学時代、坂本さんが総合アドバイザーを務める展覧会『アートと音楽-新たな共感覚をもとめて』を見に行き、高校の合唱で歌っていた武満徹らの曲が現代音楽だと認識した。
「通っていた慶應SFCの電子音楽の授業に物足りなさを感じていたので、あの坂本さんが“面白いんじゃない?”と言ってくれたら、まだ続けられるかもと思い、CDを送りました。そうしたら、ご本人から“面白いです”とメールが返ってきて。私が送った音源から、湯浅譲二、キャシー・バーベリアンといった作曲家の作品を教えてくれました。たぶん、私がすごくファンという態度でもなく、ジェネレーションも異なるので面白がってくれたんだと思います。“新宿って昔田んぼだったの知ってる?”と聞かれたりして(笑)」
印象に残っている作品は、2017年のICCの企画展『坂本龍一 with 高谷史郎|設置音楽2 IS YOUR TIME』。

東日本大震災で被災したピアノを題材にしたインスタレーション作品を展示。2017年から18年にかけてICCで開催。坂本龍一 with 高谷史郎《IS YOUR TIME》2017年 撮影:丸尾隆一 写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
「“美しいものを見てください”という展示ではなく、“僕は今これについて考えています。あなたはどう思いますか?”と問いかけてくる。そういう場所を提供してくれる作品であることに衝撃を受けました。そして、作家として積み上げてきた時間があり、鑑賞者の信頼があるからこそ成立する作品だとも感じました」
実際に坂本さんに会ったのは、エンジニアのZAKさんのアシスタントをしていた2015年、1度だけ。覚えられているとは思わず、簡単な挨拶を交わした。6年後、細井さんは坂本さんと高谷さんのインスタレーション《water state1》をはじめとする『隅田川怒濤』芸術祭のテクニカルのプロダクションを担当。直近では、坂本さんの『12』の音源を使った高谷さんの舞台『Tangent』にパフォーマーとして参加した。
「坂本さんがラジオで私の音源を流した時、“この音源に音を足してみたい”と言ってくれて、それを舞台上で実現できるのではという高谷さんの思いもあり『Tangent』への参加のきっかけとなりました。そんなふうに、長らく坂本さんともの作りをしてきた人たちの中に坂本さんが宿っているなと感じています」
