内向的な青年から謎めいた人物、コメディタッチな役柄まで幅広く演じ、着実にキャリアを積んでいる坂東龍汰さん。先日、最終回を迎えたドラマ『ライオンの隠れ家』では自閉スペクトラム症の美路人(みちと)を驚くほどリアルに表現し、注目を浴びた。
映画『君の忘れ方』では、恋人を突然事故で失った青年を繊細に演じている。
「監督からの言葉もあり、100%主観で演じました。そうしたら、自分でもわからない感情が溢れたり、時には混乱してしまうことも。でも、表面的な芝居でごまかさないで、心が感じる通りに動くことを大事にしました」
平然と日常を過ごそうにも、心の内には大きな空洞が横たわっている。映画『君の忘れ方』のテーマは「グリーフケア」。坂東龍汰さんは、結婚を間近に恋人を事故で亡くし、茫然自失となった主人公の昴を演じた。
「3歳の頃に同じような経験をしたので、他人事(ひとごと)ではなかったんです。脚本を読んだ時、これは運命だなと思いました。当時の思いについて今まで聞いたことがなかったけれど、今回を機に父と話をすることができたのは大きかったですね」
昴はグリーフケアの会の交流を通して、悲しみと向き合う手がかりを掴(つか)み始める。
「同じように心の痛みを抱える人たちが、それぞれの経験を話す光景を見るだけでも救われるんだと知りました。昴がグリーフケアの会に出会う場面を撮った日は、偶然、作道雄監督のお父さんの命日で不思議なエネルギーが空間に宿っている感じがしました。カットがかかった後、なぜか僕は涙が止まらなくなってしまって、カメラも回ってないのに、ボロボロ泣いてしまったんです」
明るい坂東さんは笑いながら話してくれたが、自身の経験も重ね、身も心も丸ごと使って物語の中に生きた証しに違いない。『ライオンの隠れ家』のみっくん役も昴同様、人物の主観で動くことを重視していたらしい。
「ただ、感情は自由に表現していいけれど、自閉スペクトラム症の動きや表情は、誇張してはいけないと考えていました。とにかく観察して、見たままをアウトプットするよう心がけました。記号的なキャラクターではなく、ちゃんとそこに存在する人物にしたかったんです。チャーミングなところも、リアルな部分も表現できればと思いました」
今、俳優業がどんどん楽しくなっているという。作品が誰かに届く喜びを実感している。
「物語には誰かの人生を代弁する役割もありますし、観てくださる方に届けてこそ。届けるためにやっているんだなと改めて思います」