都心のビル屋上で季節の花を楽しむ
「花を育てる場合、1年間の9割は葉っぱで、花は一瞬のご褒美です。でもその9割にこそ楽しみが詰まっている。樹形や葉形を観察するのは面白いし、葉っぱが元気になれば美しい花が咲きますから」と話すのはグラフィックデザイナーの黒田益朗さん。
24年前、愛猫たちが遊べる庭を作りたくて、広いベランダが付いた都心のビルに越してきた。無農薬の猫草を育てているうちに植物への愛と知識と探求心がぐんぐん高まって、今ではグリーンや造園の仕事もひっきりなし。
そんな黒田さんのベランダには、大小の鉢植えが100以上。春から夏へ、夏から秋へとリレーのように季節の花を楽しんでいる。
春はボタンにスミレにアマリリス。どこからともなく種が飛んできて、けなげに育った花や雑草も少なくない。天空に開けたこの小さなパラダイスには、都会の喧騒を忘れさせる野趣も愛らしさも包容力もある。
小さい花を小さい器に生ける
「今の時期は白いコデマリがすごくきれい。小花の一つ一つが“子供が絵に描くお花の形”をしているんですよね。今日はこの小さい花を小さい器に生けようと思います」
その名の通り、手毬のように咲いた花の重みでゆさゆさ枝をしならせるコデマリを、長く、短く、つぼみは避けつつ切っていく黒田さん。続けて黄色いパンジーにピンクのエリカ、黄緑色のクリスマスローズなど、色のついた小さな花もあれこれと。「白の世界を楽しむ生け方と、色つきの花飾り。2種類作りましょう」
まず、白の世界のために並べられたのは、高さ10㎝前後のガラス器だ。ヴィンテージの薬瓶やキャンドルホルダー、ポルトワインの空き瓶も。そこへコデマリを少しずつ。細い瓶に一枝挿したり、短めに切ったものをグラスにギュギュッと詰め込んだり。あっという間に白とガラスの世界が出来上がった。猛烈に可愛い。すぐ真似できそう。
「同じ花を並べて飾ると、一つずつの生け方はそれほどうまくなくても、全体で見た時に絵になるんです」
続けて、色のついた花や枝をイギリスの古い薬瓶に飾ってみる。背の高いものと低いもの、色濃い花と淡い花、陶器の器とガラス瓶。さまざまなメリハリが重なり合って、絵画のような美しさだ。
「花を飾る器は、口が凸形、つまり“首”と“肩”があるものが使いやすい。短い茎でもちゃんとひっかかるので、上手にラクに生けられます」
よく見ると、可憐な花だけでなく、花のついていない茎や葉もさりげなく使っているのが心憎い。
次に咲く日を待つ楽しみ
「咲いた花の背景には必ず、葉や茎だけの長い時間がある。毎日ベランダを見ているとそれを実感します。だから葉も茎も愛しいし、花が枯れた後も楽しいんです。ヒヤシンスやアマリリスは球根を土に埋めて養分を与えておく。
コチョウランなら葉っぱと根を新しい鉢に植え替えて水をやる。そうすれば翌年も翌々年もきれいな花をつけるし、2年目3年目の方が、花は可愛かったりもする。育てる喜びも生ける喜びも、今年だけじゃない。次に咲く日を待つ楽しみがあるんです」