解放された心を、イーブンキックに乗せて
現在、各メンバーがソロ活動中のThe xx。バンドではボーカルとギターを担当するROMYが、昨年秋にソロアルバム『Mid Air』を発表した。ダンスオリエンテッドな作品の発表を祝うように、ツアーのコンセプトを「Club Mid Air」として、1月には待望の来日公演が実現。ROMYはツアーについて、次のように話す。
「アルバムリリース直後からヨーロッパやアメリカの主要都市、2024年に入ってからアジア~オセアニアを回りました。『Club Mid Air』はタイトル通り、ライブ会場をクラブに見立て、みんなと楽しむことをコンセプトにしています。各地のDJを誘い、ドアオープンからプレーしてもらって。
私はもともと引っ込み思案で、緊張するタイプ。でも、お客さんがフロアで楽しそうに踊っている姿を見ると、普段自分が夜遊びしていることを思い出してリラックスする。DJたちからインスピレーションも得られるし、我ながらよく考えたと思います(笑)」
全11曲の『Mid Air』は、2曲のインタールードを除き、すべての曲がハウスやテクノミュージックに顕著な4/4拍子のイーブンキック。また、少しスロウな「One Last Try」以外、テンポも心音に近いBPM120前後に統一されている。そんなバックトラックに、甘美なメロディ。実はポップミュージック史の中で、ここまで4つ打ちにこだわり、成功したアルバムはなかった。実は快挙なんです。
「実は最初から狙っていました。もともと作曲が大好きでしたが、ソロ作品を出す自信がなかったので、バンドのツアーが終わった2018年くらいから、楽曲提供(キング・プリンセス『Homegirl』など)を始めたんです。
改めて作曲の方法を勉強してみると、メロディを書いて、歌詞をつけるという方法がベーシックだったみたいで。私は普段は詞を書いて、そこにメロディをつけるという順番で、基本とは真逆だったんです(笑)。だから簡単なバックトラックに合わせてメロディを書き、言葉を乗せるという方法をとった。これが思いのほか、新鮮で面白かった。
パソコンに打ち込んだビートに、自分の適当な声を乗せて遊んでみたりして。そうしているうちにだんだん自信がついてきたし、伝えたいメッセージも出てきたので、自分の楽曲を作ろうと考えたんです。昔からDJがクラブでプレーする音楽が大好きだったし、悩みから解放してくれることも多かった。今度はその感謝をフロアへ返そうと思ったんですよね。
バンドのメンバーも、みんなダンスミュージックが好きだから、似たテイストの曲はあったけど、自分のソロは、ガチでDJがプレーしてくれるような曲を作ろうと思って向き合いましたね」
ちょっと恋しい、ギターとメンバー
『Mid Air』の制作にあたり、改めてデジタル機材の使い方も学び直したことで、結果的には歌詞の方向性も変わったのだという。
「トラックを含めて、全部自分で作りたいと思ったから、バンドの時に使っているギターは、今回のソロ制作では一切弾いていないんです。歌詞に関しても、今までラブソングを書いている時には、相手を“You”とか、少しぼかして書いていましたが、今回は偽りのない自分を表現したかったので“Her”と書きました。
そうしないと『She's on My Mind』など、クラブで目が合った女の子に“あれ?私のことを見ているけど、気になっているのかな?”とか、少しドキドキするようなロマンティックなこと、書けませんからね(笑)」
ソロツアーは断続的に続く予定ながら、今月からはThe xxの制作に入るそう。
「ここのところギターを弾かなかったから、ちょっと寂しかった。でも、その恋しさを感じたかったというか(笑)。わかります?嫌いになったわけじゃないけど、恋人と距離を置くことに似ているかもしれない。ジェイミーxxやオリヴァー・シムとも早く一緒にセッションしたい。馴染みで、もう長い付き合いだから、寂しいとは思わないけど。それぞれがソロ活動で、どんな新しいインプットを得たのか、今から楽しみです。
まずはみんなでロンドンに集合して、最高のサウンドシステムと日本酒が楽しめるDJバー〈Brilliant Corners〉にでも行って、ナイトクラビングしたいかな。世界中のクラブで遊んだけど、やっぱりロンドンはホームだから、大好きな〈Dalston Superstore〉にも行きたいな。だから、いつ新作が完成するか、全然わかりません(笑)」