フランシス・フォード・コッポラが、構想40年、途中企画が何度も頓挫しながらも、最終的には私財を投じて完成させた、まさに人生を賭した映画『メガロポリス』がいよいよ公開となった。
「古代ローマを模倣した現代のニューヨークを舞台にしたローマ叙事詩」というこの作品。様々な社会問題が噴出し危機に瀕した近未来の〈ニューローマ〉という都市において、新素材「メガロン」の発明でノーベル賞を受賞した建築家カエサル(アダム・ドライヴァー)が、市長のキケロ(ジャンカルロ・エスポジート)らの妨害に遭いながらも、理想都市の建設を目指して突き進んでいくというストーリーだ。
そのセカンドユニットの監督を務めたのが、コッポラの次男で、映画監督としても活躍するロマン・コッポラだ。そこで、『メガロポリス』について、おそらく誰よりもこの作品を知るであろうロマンに話を聞いた。
ロマンは、2001年に『CQ』で監督デビューし、12年の『チャールズ・スワン三世の頭ン中』を最後に、自身の監督作を撮っていないが、その前後からウェス・アンダーソンのコラボレーターとして、日本でも知られるようになった。
「ウェスとは、最初の短編の『BottleRocket』の脚本を書いたL・M・キット・カーソン(『パリ、テキサス』の脚本家)が共通の友人だったのと、『天才マックスの世界』に従弟のジェイソン(・シュワルツマン)が出ていたこともあって知り合いました。そして、『ライフ・アクアティック』の撮影をイタリアまで観に行ったときに、セカンドユニットの監督を任されたのがきっかけで、その後もずっと協力しています。『ダージリン急行』は、友人として原案から参加しました」
ロマンは、そのウェスとの共同作業と並行しながら、父や妹ソフィア・コッポラの映画でも、製作やセカンドユニットの監督を務めてきた。
「セカンドユニットの監督というのは、自分のキャリアの一部としてすごく気に入っています。監督や作品のスタイルに合わせて、自分のエゴなどは出さずに監督の作品に仕える、それがセカンドユニットのディレクターのプロとしての姿勢だと思うんですけど、その資質を僕が持っていたということなんでしょうね」
そしてロマンは、今度は父親の映画『メガロポリス』のセカンドユニット監督を務めるが、実は、すでに企画の当初から関わっていたという。
「1983年に高校を卒業したんですが、その年の夏は、この映画の資料や素材集めのための、クライスラービルのようなニューヨークの建築物についての本などのスキャンに明け暮れていましたね。ものすごく大掛かりな撮影機材を使って。その後も、企画が進むたびに呼ばれてはいましたが、本格的に撮影に関わったのは今回が初めてです」
では、ロマンが実際に撮影に関わったのはどのシーンなのだろうか。
「この作品の中の不思議で異質でストレンジな映像のシーンは僕が関わっています。最初のマディソン・スクエアのパーティのシーンとか、夜の車のシーンとか、後半の暴動のシーンですね」
不思議といえば、カエサルが発明した「メガロン」という新素材だ。
「メガロンを使えば、建物を建てることもできるし、体を治癒することもできる。だから、メガロンは、そうした人間が本来持っている無限の可能性とか、未来への楽観的な見方や希望を表しているのではないでしょうか。これは、あくまで僕の見方ですが」
『メガロポリス』は、父コッポラが私財をなげうって、〈ニューローマ〉という一つの都市を創造したという意味では、フリッツ・ラングの『メトロポリス』以上に、コッポラがしばしば言及してきたジャック・タチの『プレイタイム』を彷彿とさせる。タチも、莫大なお金を使って〈タチヴィル〉と呼ばれた一つの町を造り上げた。
「父は、映画というフォルムが、どんな可能性を秘めているのか知りたい、どこまで進化し、どうやって未来に向かって拡大していくものなのかを知りたいと思っているんです。それには手間もお金も惜しまない。それはタチも同じでしたよね。2人とも映画という領域の地平を広げていきたいと思っている。だから、2人は実際に会ったことはなくても精神的な戦友というか。父はきっと先駆者のタチの映画から勇気をもらっているんだと思います」
ロマン・コッポラの仕事、その一部
父同様、妹のソフィア・コッポラの映画でも、『ヴァージン・スーサイズ』から、エルヴィス・プレスリーの妻だったプリシラの半生を描いたこの最新作まで、ほとんどの作品で製作やセカンドユニット監督を務めている。
フランシス・フォード・コッポラが、40年の長きにわたって構想し、私財を投じてようやく完成させたSF一大叙事詩。主演の建築家役にアダム・ドライヴァー、対立する市長役にジャンカルロ・エスポジート。全国公開中。