世界初の防水腕時計である〈ロレックス オイスター〉の誕生50周年を記念して創設された「ロレックス賞」。1976年以来190カ国から約35,500人の応募があり、これまでに155人の受賞者が選ばれてきた。ロレックス賞の受賞者は、これまでに2,300万本を植樹し、ユキヒョウからタツノオトシゴまで43の絶滅危惧種を保護し、57,600㎢のアマゾン熱帯雨林を含む30の主要な生態系の保護活動を行い、そして何百もの新種を発見してきた。
「私の考えでは、環境を守らずに
人権を守ることはできないのです」
2021年度の受賞者もユニークだ。アフリカのチャドで活動するヒンドゥ・ウマル・イブラヒムは、気候変動と先住民の権利を主張する活動家。何千年にもわたり、チャド湖周辺の地域で集まって生活してきた、遊牧民ムボロロの女性だ。彼らにとって重要な資源であった巨大なこの湖は、地球温暖化の影響によりたった数十年のうちに枯れてしまった。湖が枯れることは、水源の喪失を意味する。これにより牧草地は枯れ、枯渇する資源をめぐり農民と放牧民の対立が激化していったという。地域が危機に瀕するなか、分断されてしまったコミュニティが一つになれる方法として、彼女は参加型マッピングを見出す。
成功の鍵は、その環境を最もよく知り、理解し、大切にしているのは先住民の知識を重んじることだった。イブラヒムは、サヘル地域の天然資源をマッピングするため500の先住民の人々を集め、男性たちが尾根や高原、川や聖地を、女性たちが泉を記録するプロジェクトを実施。できあがったマップは地方自治体が資源をよりスマートに管理できる方法として、政府に採用された。一方的に引かれた国境線が戦争の原因になることも少なくないアフリカにおいて、イブラヒムはマップを平和のツールに変え、より安全で豊かな未来を共に計画することを考えている。
世界最北端の洞窟を自ら探検。過去の温暖化の記録を今に生かす
同じく2021年度受賞者のジーナ・モズリーは、気候研究者だ。北極圏にあるグリーンランドの氷は記録的な速さで溶けていて、2019年には1ヶ月に1mm以上の海面上昇が起きている。
ベテランの洞窟探検家でもあるモズリーは、グリーンランドにある人類未踏の洞窟に隠された地質学的記録を明らかにすることで、遠い過去の温暖化と寒冷化、それらが北極圏と地球環境に与えた影響を解き明かそうとしている。「洞窟はタイムマシンのようなものです。方解石は、木の年輪のように層を成しています。それぞれの層を分析することで、過去の気候に関する情報を得ることができます」(モズリー)
この他、受賞プロジェクトには、砂漠地帯で食物を冷やして保存するための2つの土のポットを使用したシステムといったシンプルな技術から、歩行困難な人を助ける電子インプラントのようなハイテクな試みも。カンボジアの古代から続く伝統的な絹織物統の復活や、グルジアにある先史時代の遺跡の発掘といった文化遺産プロジェクトも受賞している。
探検家の支援から、地球を守ることへ
〈ロレックス〉は1世紀近くにわたり、人類の限界を押し広げる先駆的な探検家たちを支援してきた。それが、気候変動による環境問題の深刻化に伴い、探検そのものへの支援から地球を守ることへミッションが移行したのは自然な流れだろう。2019年には「パーペチュアル プラネット イニシアテチヴ」を立ち上げ、「ロレックス賞」のプログラムの他、世界の様々な団体とのパートナーシップを通して、気候変動への理解に貢献している。
現在、「ロレックス賞」の2023年度の応募受付がスタートしている。18歳以上であれば、国籍に関係なく誰でも、5つの分野(科学と医療、環境、応用技術、探検、文化遺産)において応募することができる。深海の専門家や探検家、起業家、文化遺産の庇護者、医学博士などで構成された委員による選考を経て5人が選ばれる。受賞者には、プロジェクトを遂行するための資金が提供される他、過去の受賞者のコミュニティにアクセスし、アドバイスや指導を受けることができる。応募の締め切りは、2022年10月17日(月)。詳細はウェブサイトを見てほしい。
今日の地球環境問題はますます深刻化の一途をたどっている。その最前線で活動する個人や組織を支援する「ロレックス賞」。斬新なインスピレーションを与えてくれる受賞者の活動にも注目したい。