ライター、編集者・松永良平が案内する、ゼロ年代「アナログレコード」の歴史

ゼロ年代の様々なカルチャーを、現在シーンの一線で活躍する案内人による解説(歴史編)と、当時を知る証言者との対談(対談編)の交互で読み解いていく連載。今回はライター、編集者・松永良平が案内する「アナログレコード」歴史編。

text & edit: Ryota Mukai

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案内人・松永良平

ライターの松永良平さんが、東京・渋谷の〈ハイファイ・レコード・ストア〉に勤め始めたのは2000年のこと。かつての界隈の街並みを思い返しつつ、ゼロ年代を振り返る。

ブームの終焉とともにネット時代が到来。数々の店が姿を消したレコード氷河期時代、世界には光があった

ゼロ年代はレコードショップにとって徐々に苦しい時期になっていきます。前向きな話はあまりありません(笑)。1990年代は、95年には1ドル79円台にまでなった円高や、渋谷系、フリーソウルなどを背景として中古レコードが一種のブームになり、海外のレコードが日本に大量に入ってきました。

ネット以前の社会では、お店に集ってレコードを買うことがカルチャーの交流点でもあった。でも、その熱気がゼロ年代に入ると……。魔法が解けたような感じでした。お店に集まるより「mixi」で集う方が楽しい、みたいな風潮もありましたしね。

渋谷ではレコード人気をリードしてきた店が次々と閉店していきます。神南エリアにあった〈マキシマム・ジョイ〉や、宇田川町の〈ゼスト〉、そして輸入レコード文化の中核を長年担っていた〈シスコ〉【A】が続きました。

〈シスコ〉は実店舗を閉店してオンラインショップに移行し、1年後に倒産します。それが象徴的ですが、ゼロ年代はネット販売がスタートし、当たり前になっていった時代です。でも弊害もあった。ヤフオク【B】が安いなら、極端な話、店に行かなくてよくなった。

さらにナップスターでは何万曲も聴ける。最初、iPod【C】に1000曲入ると聞いたときは驚きましたよ(笑)。でも、ネット上で検索して「幻の名盤」を聴いたら、あれれ?……みたいな軽い失望をした人も多かったはず(笑)。まあ、その逆で、ネットで発見された幻のアーティストの再評価とかもこの時期から始まっていくんですが。 

かつて渋谷系を支えた世代は30、40代になり、かつてのようにレコードを買わなくなった。残ったお客さんの多くは団塊の世代でした。ユースカルチャーではなくなったんですね。やがてテクニクスのレコードプレーヤーの新規生産も終了。もはやレコードで音楽を聴くことは、現代にわざわざブラウン管でテレビ番組を観るようなものになっていくのかもと不安でした。

さて、明るい話もしていきましょう(笑)。2007年の話です。ロンドンのレコードショップ〈ラフトレード〉では、新譜の7インチが大プッシュされていて驚きました。同じ頃アメリカではレコード・ストア・デイ【D】というイベントが始まります。

インディーのストアが手を取り合い、レコード文化を盛り上げていこうとしていたんですね。この波が日本で盛り上がるまでにはまだ数年かかるのですが。というのも、世界的にはゼロ年代には既にCDが売れなくなり、音楽配信への移行が進んでいて、レコードの再評価も早かった。ゼロ年代に入ってもCDがまだまだ売れていた日本の方が特殊だったんです。

また、国内を見ても〈カクバリズム〉のように7インチを積極的に発売するレーベルが登場しました。大きな儲けにはならなかったはずですが、代表・角張渉さんがそのフォームを大切にして踏ん張っていたんです。お店では、90年代のブームとは違う考え方の店がレコード文化を支えてきたと言えるでしょう。

〈JET SET〉など、ネット販売にいち早く適応し、ウェブサイトをかっこよく見せるお店も増えていきました。また、江古田や池袋などに店舗を構える〈ココナッツディスク〉が99年に吉祥寺に開けた店舗は、やがてインディーポップの発信地として話題になっていったし、国分寺の〈珍屋〉など郊外のローカルに根づいたショップもしぶとく生き残りましたね。

テン年代に入ると、レコードを愛する新しい世代のミュージシャンが登場したり、再評価の波がやってきたり。なので、リアルタイムでは人気の落ち込みを感じていたけど、次の時代の予兆はひそかにあったんだと思います。かつてのように気になったものを片っ端から集めるような買い方はほぼなくなったけれど、90 年代よりも今の方がサステイナブルでしっかりと背景のあるブームだと言えるのかもしれません。

2000

〈JET SET〉がオンラインストアをオープン。
音楽のデータベースウェブサイト「Discogs」が開設される。05年にオンラインでのレコード売買開始。
日本のアナログレコードの年間生産数量が約191万枚で、前年と比べて約107万枚マイナスになる。

2001

初代iPodが発売。
レコード店〈SHOP ESCALATOR〉がオープン(10年に〈BIG LOVE RECORDS〉に改称)。

2002

違法コピーを防ぐための特殊加工が施されたコピーコントロールCDが日本で導入される。
〈カクバリズム〉設立。YOUR SONGIS GOODの初音源「BIG STOMCH, BIG MOUTH / LOVE GENERATION」を7インチでリリース。
〈JET SET下北沢店〉がオープン(09年に同じ下北沢内で移転リニューアルオープン)。

2003

インターネットで音楽を発表できる「MySpace」サービス開始。
〈ココナッツディスク〉江古田店がリニューアルオープン。

2004

SNS交流サイト「mixi」開始。
レコード店〈マキシマム・ジョイ〉が閉店。
〈ココナッツディスク〉代々木店がオープン(現在は閉店)。

2005

レコード店〈ゼスト〉が閉店。
日本のタワーレコードが米ナップスター社との合併による定額配信サービス「ナップスタージャパン」設立。

2006

アメリカのタワーレコード全店が閉店。

2007

YouTubeの日本語版サービスがスタート(アメリカでのサービス開始は05年)。
レコード店〈シスコ〉が全店閉店し、オンラインショップに移行。翌年倒産。

2008

〈テクニクス〉のターンテーブルSL ‒1200MK6が発売。10年に販売を終了し、これをもって〈テクニクス〉ブランドが一時休止に(14年に復活)。
レコード・ストア・デイがアメリカで初めて開催される。

2009

日本のアナログレコードの年間生産数量が約10万枚になる。2000年代を通して最も少ない数値。

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