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潟見 陽×大塚隆史が語る、ゼロ年代「クィアカルチャー」

ゼロ年代の様々なカルチャーを、現在シーンの一線で活躍する案内人による解説(歴史編)と、当時を知る証言者との対談(対談編)の交互で読み解いていく連載。今回は、潟見 陽×大塚隆史による「クィアカルチャー」対談。

text & edit: Ryota Mukai

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案内人・潟見 陽
ゲスト・大塚隆史

「ゼロ年代はスクエアダンスばかりやっていました」という大塚隆史さん。その個人的な経験から、当時のクィアカルチャーが見えてくる。潟見陽さんが、当時を尋ねる。

コミュニティを持ち自らの活動を始める。「何かできる」という実感はテン年代以降のLGBT運動の土壌に

潟見陽

1990年代にはゲイブームがあり、ゼロ年代を経てテン年代には「LGBT」という言葉が当たり前になったりパレード【A】が盛り上がったりと社会的なムーブメントがあったと思います。これらに比べると、ゼロ年代は大きな展開はなく、過渡期のような期間だったと感じています。大塚さんは当時をどのように振り返りますか?

大塚隆史

僕も含めて、セクシュアルマイノリティ自身が活動をスタートさせた時期だったと言えると思います。活動することで自分たちにも何かができるという実感を得たことがその後の社会運動の盛り上がりにもつながっているのではないでしょうか。当時の活動は広く一般の人には認知されてはいないという意味で、「土壌作りの時期」だったと言うのが正確かもしれません。

潟見

なるほど。その「土壌作り」は、90年代のゲイブームとは違っているのでしょうか?その一例として知られる、『別冊宝島』のゲイ三部作【B】は大塚さんも深く携わっていますよね。

大塚

今から振り返れば、90年代のブームは、ストレートにとってのブームでした。ゲイ三部作も依頼をもらって作っているし、よく売れたから三部作にもなりました。極端に言えば、世の中に求められた結果だったんです。

もちろんすごくいい経験ではありました。〈タックスノット〉に集まるお客さんとも一緒に作れましたしね。ただ、ゼロ年代はもっとセクシュアルマイノリティによる、セクシュアルマイノリティのための活動だったと思うんです。

潟見

大塚さんはどのような活動をされていたんですか?

大塚

ゲイ&レズビアンコミュニティで、〈Edo Eights〉というスクエアダンスクラブを立ち上げました。僕は2000年から10年まで。ゼロ年代はダンス漬けでしたね。

潟見

それは初耳です。スクエアダンスはどういうものなのでしょうか?

大塚

アメリカ発祥の、主にカントリーミュージックに合わせて踊るダンスです。8人1組で、コーラーと呼ばれる人の指示に合わせて動きます。パズルを解くような感覚があって面白いんですよ。〈タックスノット〉のお客さんがスクエアダンスをやりたいと声をかけてくれたことを機に、メンバーを集めて毎週土曜日に練習していました。多いときは150人くらいメンバーがいたんですよ。

潟見

すごい人数ですね。

大塚

地道にデモンストレーションをして人を集めました。スクエアダンスは踊らないとその楽しさが伝わらないんです。ミクシィ【C】にもコミュニティがありました。サービス開始当初は招待制だったので、匿名性が高い掲示板と比べてより安心感がありましたね。

潟見

インターネットが一般的になって、ゲイ同士で集まりやすくなりました。何より初めから相手がゲイだとわかるのは大きな変化でした。

大塚

初めにミクシィが出てきたときは「このまま店を続けられるだろうか」と不安に思うこともありました。好きなものを介してつながることができる、ということは、それまでお店が担ってきた役割でもありましたから。とはいえ、そこでつながった人同士は夜になればバーに来てくれるので、杞憂だったんですけどね(笑)。

それにミクシィなら、ゲイバーに足を運ぶのに抵抗があったり、そもそもお酒が飲めなかったりという人も利用できる。セクシュアルマイノリティにとってポジティブな面は多かった。

潟見

当時のお店の界隈、つまり、新宿二丁目の雰囲気は今と違っていますか?例えば、03年にはHIV陽性者のサポートや啓発を手がけるコミュニティセンター〈akta〉ができました。

大塚

HIVに関しては、二丁目で楽しく飲んでるときくらい忘れていたいという空気が強かったと思います。〈akta〉がコンドームを置く活動をしていたけれど、当時は「飲みの場でやめてよ」という人もいて。社会的な運動と普段の楽しみが、近くにあったけどうまく噛み合っていなかったような感覚ですかね。

でも、10年、20年と経って、例えばコンドームのパッケージにデザインが施されたりと工夫もされ、今は自然になっていると思います。知識の広がりとそれを受け入れるまでには時間がかかるものです。

潟見

初めに触れた通り、テン年代には社会的なムーブメントが広がったと感じているのですが、大塚さんの目にはどのように映っていますか?

大塚

おっしゃる通りだと思います。特にパレードは、資金面でも運営面でも、これまでとは全く違っていますよね。その内容も、メッセージの発信だけでなく参加者自身が楽しむことも大事にしている。

また、パートナーシップ条例が誕生し、セクシュアルマイノリティによる同性婚訴訟【D】も進んでいます。こうした当事者による動きは、ゼロ年代の多様な活動たちと細い線でしっかりつながっていると思うんです。

それに、潟見さんを見ていても、リブ的なものは空気のように当たり前になっているのではないでしょうか。ただ楽しいだけでは満足しないというか。これまでの歴史を引き継いでいると同時に、その先の未来も感じる。現代的な存在だと思います。

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