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クマタイチ×西沢立衛が語る、ゼロ年代「建築」

ゼロ年代の様々なカルチャーを、現在シーンの一線で活躍する案内人による解説(歴史編)と、当時を知る証言者との対談(対談編)の交互で読み解いていく連載。今回は、クマタイチ×西沢立衛による「建築」対談。

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text & edit: Ryota Mukai

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案内人・クマタイチ
ゲスト・西沢立衛

ゲストは、国内外で活躍し、〈SANAA〉【A】としてプリツカー賞受賞歴もある、建築家の西沢立衛さん。仕事をするうえで、西沢さんの“建築は場を作る仕事”という言葉に励まされてきたというクマタイチさんが訊(き)く。

〈金沢21世紀美術館〉から、3.11まで。ゼロ年代の閉塞感に向き合ってきた建築家の思考の跡

クマタイチ

ゼロ年代の建築には、大きく2つの特徴があると感じています。一つはダイアグラム【B】がシンプルになったこと。円をはじめとする一目でわかりやすい形の建築が増えました。〈SANAA〉による〈金沢21世紀美術館〉もその一例です。もう一つは、木や竹などオーガニックな素材が積極的に使われるようになったことです。

西沢立衛

オーガニック素材が出てきたことは、おっしゃる通りだと思います。ダイアグラムに関しては1990年代に発展して、ゼロ年代に簡略化したという印象です。当時から働いている身として、よりゼロ年代的だと感じるのは、3Dプログラムを当たり前に使えるようになったことでしょうか。

クマ

3Dで仕事の在り方は変わりましたか?

西沢

3Dモデルが出てきたときは、生々しく感じました。抽象的でないというか。3Dモデルは、立体の全部の寸法を数値化しないと形にならないので、すごく具体的なんです。一方で模型は、抽象的に作ることができる。細かいことはさておき、造りたい建築のイメージやアイデアを、適当に形にできるんです。

クマ

以前に勤めたニューヨークの建築事務所では、3Dでいかに細部まで表現ができるかが問われました。

西沢

欧米人は、建築をアイデアレベルの抽象的なことではなく、モノとして考えている印象があります。ヨーロッパの大学で教えているときに感心したのが、学生はスタディ模型を、最初から木材とか石膏とかで作って持ってくるんです。すごい物質的です。彼らにとって建築とはアイデアでなくて、物なんだと思います。日本人の模型は紙なので、いっぱい作れる。どんどん壊してどんどん作るんです。抽象的な次元で考えていくのは日本の建築家の特徴かもしれません。

クマ

模型は物ではなくて、あくまでアイデアなんですね。

西沢

日本人はそうですね。日本人にとって建築が物になるのは、やはり現場とかでしょうか。上棟のときとか。

クマ

3Dを使うことで建築そのものに変化はありましたか?

西沢

3D的なものができたと感じたのは、2012年に完成した〈ルーヴル・ランス〉が最初です。例えば、10年竣工の〈ロレックス・ラーニング・センター〉は2D的でした。妹島和世【C】さんはまた違うように考えているかもしれませんが。

クマ

どちらも〈SANAA〉としての仕事ですもんね。

西沢

昔はよく論争しました。どちらも若さゆえとにかく元気だけはあって(笑)。ハードな時代でした。

クマ

ハードな中でも、〈SANAA〉とは別に西沢さん個人でもさまざまなお仕事をされていますよね。例えば〈森山邸〉は完成から20年になります。ご自身が手がけた建築のその後にはどのような関心を持っていらっしゃいますか?
 
というのも、僕もそうですが、自身が建築した場所を運営し、時間経過による変化を楽しもうというアプローチをする人が近年増えている印象があって。

西沢

〈森山邸〉は、賃貸集合住宅+オーナー住宅なのですが、最終的には森山さんだけの家になる、というイメージが当初はあって、〈森山邸〉という名前にしました。現在は一部、スペース貸しもしています。森山さんが、台所でカフェをやりたいと言って、いいなと思いました。使い方が変わっていくのは面白いですよね。クマさんのように運営まで手がける人は、テン年代以降の潮流な気がします。

クマ

開館は11年ですが、〈軽井沢千住博美術館〉はいかがですか?
 
ここは物ではなく、空間を強く意識して造られた場所だと感じました。自然の中を歩き、周囲の森と一体化したような感覚が印象的で。設計の際にはどのようなことを考えていらしたんですか。

西沢

当時は僕もほかの人たちも、社会の行き詰まりを漠然と感じていたと思います。〈千住博美術館〉は3.11以前のものですが、問題意識としてはその頃もう、あまりに人工的になった都市環境に限界を感じて、自然と人間の根本的な関わり方について考え始めていたと思います。

クマ

3.11以後、例えばどのようなことを考えられたのですか?

西沢

自然と人間の関係を考え直すということは、震災以前から始まっていたとはいえ、やはり震災の影響は、決定的だったんじゃないでしょうか。最近、図書館や美術館、音楽ホールなどの新しい役割を考えるという事例が多いと感じます。単機能であったものを多機能なものとして考える、または機能だったものを場所として考え直す、というムーブメントは、震災の影響ではないかと思います。

また、「人の場所を作る」ということが震災以降、注目されたと思います。〈みんなの家〉【D】のような活動もそうだと思います。そして、震災以降のことで、最も大きいと思えることとして、理想の人間集合を多くの建築家が想像するようになった、ということがあると思います。よりよい共同体のありよう、よりよいまちづくり、などです。

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