案内人・根本宗子
2003年に観劇した『ニンゲン御破産』(大人計画【A】)に衝撃を受けて以来、年間120本ペースでさまざまな劇場に足を運んできたという根本宗子さん。当時、いち演劇ファンとして目の当たりにし、肌で感じた演劇シーンを振り返る。
小劇場が群雄割拠。「静かな演劇」を継ぐ日常会話劇が花盛りに。アートな「演劇」が、シーンの幅を広げた
ゼロ年代を象徴する演劇の一つといえば、現代口語を使った会話劇だと思います。ファミレスでのなんでもない会話を盗み聞きしているような日常の延長線上にあるリアリティを追求する演劇が盛り上がっていました。
三浦大輔さんが主宰する〈ポツドール〉や、作・演出を赤堀雅秋さんが務める〈THE SHAMPOO HAT〉などがその代表例だったと思います。遡れば1990年代から、平田オリザさんが主宰する劇団〈青年団〉が取り組んできた「静かな演劇【B】」がその出発点にあるのかなと思います。
もちろん90年代は私は生まれたばかりで肌で感じた話ではありませんが。時を経て、特にコロナ禍以降、会話劇のブームが今再びあるように感じています。Y2Kのように、2000年前後のスタイルが演劇シーンでも注目されていることがとても興味深いです。
一方、例えば長塚圭史さんが主宰する〈阿佐ヶ谷スパイダース〉では、B級ホラー演劇を多くやっていて、エログロ要素のある演劇が人気を集めていたことは、最近ではあまり見ないようになったという意味で、この年代の特徴の一つだと思います。
また、当時は小劇団の活動がテレビでフィーチャーされるなど、少なからず社会的にもブームが起こっていました。人気を集める劇団のチケットはどんどん取りにくくなっていった記憶があります。
蓬莱竜太さんが作・演出を手がける〈モダンスイマーズ〉や、俳優としても活躍する江本純子さんが作・演出を手がける〈毛皮族〉もその一つ。大劇場での演劇といえば、古田新太さんらが所属する〈劇団☆新感線〉などが新橋演舞場に進出したり、盛り上がりがすごくて一生懸命チケットぴあに並んだ記憶があります。
劇団の話ばかりしてきましたが、公演のやり方にも変化がありました。いわゆる劇団公演【C】ではなく、プロデュース公演という形が増えたのもこの時期の特色の一つです。プロデューサーが演劇を企画し、そのたびに作家や演出家、役者らが集められて公演が行われます。
例えば〈劇団、本谷有希子〉のように「劇団」と銘打っているけれど、所属俳優は持たず公演のたびに出演者を集める、といったスタイルもこの時期から増えてきました。
そして、ゼロ年代の演劇を語るうえでなにより欠かせない存在が宮藤官九郎さん。演劇のみならず、テレビドラマや映画の脚本を多く手がけて、話題の作品には必ず宮藤さんの名前があったように思います。
ドラマには『池袋ウエストゲートパーク』『木更津キャッツアイ』、映画には『GO』『ピンポン』……などなど、周りの同世代みんなが知っているようなタイトルがたくさんあり、本当にすごいことだなと思います。その名前を通して初めて演劇に触れたという人も少なくないはずです。インターネットも広がりつつあり、若い人の楽しみが増えていた時代に、その目を演劇に向けさせた存在なのだと改めて実感します。
ゼロ年代も後半に入るとさらに演劇のバリエーションが増えていったように思います。ファッションの人と作る衣装で舞台に立つ「演劇」、セリフがなくダンスだけの「演劇」……など、裾野がどんどん広がっていったように感じます。すごくわかりやすく言うと、「美術館で演劇やっちゃうよ」みたいなことも「演劇」という枠組みのなかでアリになってきた。このように、演劇の捉え方や感覚に変化が出てきた時期、というのが私から見た率直な印象です。
日本の演劇は、いつの時代もさまざまなブームがあってとても面白いです。幅広い世代の人たちの中で、ロンドンやニューヨークのように観劇に行くことが日常に組み込まれていくと、さらに日本の演劇も盛り上がっていくだろうなと夢見ています。
2000
土屋亮一作・演出の『笑ってもいい、と思う』(シベリア少女鉄道)が初演。
長塚圭史作・演出の『イヌの日』(阿佐ヶ谷スパイダース)が初演。
江本純子を中心に劇団〈毛皮族〉が旗揚げ。同年、旗揚げ公演『鬼畜ロマン』を初演。
2001
多田淳之介を中心に劇団〈東京デスロック〉が旗揚げ。
上田誠作・演出の『サマータイムマシン・ブルース』(ヨーロッパ企画)が初演。
2003
松尾スズキ作・演出の『ニンゲン御破産』(大人計画)が初演。
上島雪夫演出の2.5次元ミュージカル『テニスの王子様』が初演。
倉持裕作・演出の『ワンマン・ショー』(ペンギンプルペイルパイルズ)が初演。
青木豪作・演出の『jam』(グリング)が初演。
2004
岡田利規作・演出の『三月の5日間』(チェルフィッチュ)が初演。
宮藤官九郎作・河原雅彦演出の『鈍獣』(ねずみの三銃士)が初演。
2005
三浦大輔作・演出の『愛の渦』(ポツドール)が初演。
永井愛作・演出の『歌わせたい男たち』(二兎社)が初演。
蓬莱竜太作・演出の『さよなら西湖クン』(モダンスイマーズ)が初演。
2007
藤田貴大が演劇団体〈マームとジプシー〉を旗揚げ。同年、旗揚げ公演『スープも枯れた』が初演。
赤堀雅秋作・演出の『その夜の侍』(THE SHAMPOO HAT)が初演。
2008
中屋敷法仁作・演出の『恋人としては無理』(柿喰う客)が初演。
04年に結成した〈小指値〈koyubichi〉〉を前身に、劇団〈快快〉が結成。同年、改名後初公演『ジンジャーに乗って』が初演。
本谷有希子作・演出の『幸せ最高ありがとうマジで!』が初演。
2009
三浦直之が劇団〈ロロ〉を旗揚げ。同年、旗揚げ公演『家族のこと、その他のたくさんのこと』を初演。
根本宗子が劇団〈月刊「根本宗子」〉を旗揚げ。同年、旗揚げ公演『創刊号「親の顔が見てみたい」』を初演。
柴幸男作・演出の『わが星』(ままごと)が初演。