クリエイティブディレクター、映像作家・鈴木健太が案内する、ゼロ年代「広告」の歴史

「CM表現の多くはやり尽くされ、定型化されている」というクリエイティブディレクターの鈴木健太さん。特にゼロ年代は、伝統を引き継ぎつつ、現在の「インターネットが主役」な時代への転換点でもあったと振り返る。

text & edit: Ryota Mukai

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案内人・鈴木健太

華やかな90年代とネット台頭の狭間。時代に翻弄され、表現を実験した前夜祭のような10年

広告が流行や時代を作ってきた、と言われることがありますが、僕の認識はむしろ逆です。時代に翻弄され、時代を映す鏡のようなもの。ゼロ年代はそれが特に顕著だったように思います。

なにより象徴的なのはインターネットの一般化。1990年代末に生まれ、広がったバナーのFLASH広告【A】に始まり、2007年にはYouTubeの動画広告が登場するなど、広告の舞台が大きく変わりました。翌年には日本でiPhoneが発売され、あらゆる人が膨大な情報量を手元で気軽にキャッチできるようになった。

ちなみにテレビCMの最後に「続きはウェブで」という表現が使われるようになったのは、ライフカード「カードの切り方が人生だ」が最初期の例です。05年のことでした。この頃から新聞、雑誌、ラジオ、テレビのいわゆる4マスと呼ばれるマスコミの在り方に変化が起き、一方で、個々人の興味が分断され始める。社会学者の宮台真司さんの言葉を借りれば島宇宙化【B】が本格的に進行し始めるのがゼロ年代の後半。以降は広告の選択肢が増えたうえに、例えば炎上などクリエイティブ以外にも考えるべきことが増えていきます。

それ以前、つまりゼロ年代前半までは表現のフィールドが限られていたとも言えます。テレビCMなら15秒、30秒にどう面白く詰め込むかがなによりの肝。古き良き90年代の名残をとどめつつもゼロ年代の流行を取り込み、結果として非常にバリエーションに富んだCMの数々が生まれました。

例えば、音ネタはクラシカルな方法の一つ。90年代に佐藤雅彦さんが手がけたドンタコスのCMをはじめ、その例は挙げればキリがありません。ゼロ年代には、燃焼系アミノ式の「グッバイ、運動。」シリーズや、「チェッチェッコリ」と歌う茶、キユーピーの「た〜らこ〜」の曲などがありましたね。当時歌ネタが流行していましたが、佐藤さんを筆頭とした90年代の表現が広告を超えてお笑いにも影響を与えたのかもしれません。

また90年代のCMは華やかかつ大胆で、情緒に訴えかけてくる。いすゞのCMはその一例です。パリの街中を尋常じゃないドライビングテクニックで疾走するだけ(笑)。ここまでお金がかかり、かつ芸術的な表現に特化したCMは減っていますが、ゼロ年代はまだまだ全盛期。「ファンタ学園」や日清カップヌードル「NO BORDER」、転職情報誌B-ingの「ショッカーの転職」【C】に「DoCoMo2.0」、缶コーヒーBOSSの「宇宙人ジョーンズ」……などの、シリーズものが挙げられます。なにも考えずに見て楽しいし、気づいたら覚えてしまう。

こういった90年代からの流れに収まらないCMも少なくありません。高崎卓馬さんが手がけた「IMAGINATION/WHALE」【D】はのちに絵本になったりと、多面的な展開がされた歴史に残るCMだと思います。07年にはウェブデザイナーでもある中村勇吾さんが手がけたユニクロの「ユニクロック」【E】がスタート。ウェブサイトに埋め込める、時計機能付きのブログパーツとして展開されました。表現の舞台がインターネットになり、注目を浴びるようになる。単純な映像ではなく、インタラクティブにユーザーに体験してもらうような広告が増えていきます。

個人的に好きなのは、抜け感と言語に頼らない強さがあるもの。1999年から始まるHONDAの企業広告「Do you have a HONDA?」や、タナカノリユキさんによるユニクロのCM、また、ソフトバンクが登場した頃のスパイク・ジョーンズらが監督したCMなどです。海外ではMr. oizoというDJのキャラクターが出演したLEVI'SのCMや、Apple「iPod」のCMもゼロ年代カルチャーを作ってきたと思います。ノンバーバルでも気分が伝わる表現は、僕がMVを作る際にも影響を受けることがありますね。

2001

公益社団法人ACジャパンのTVCM「IMAGINATION/WHALE」が放送。
日本コカ・コーラ/QooのTVCM「プール」「日焼け」「露天風呂」「動物園」が放送。
J−フォン西日本 四国支社/J−PHONEのTVCM「電源ONでメール確認」が放送。

2002

日本コカ・コーラ/FantaのTVCM「ドラゴン先生」「革ジャン先生」「激安先生」が放送。
キユーピー/キユーピーマヨネーズのTVCMシリーズ「料理は高速へ」が放送。

2003

サントリー/燃焼系アミノ式のTVCMシリーズ「グッバイ、運動。」が放送。
ポッカサッポロフード&ビバレッジ/茶のTVCM「チェッコリ」が放送。

2004

ネスレ日本グループ/ネスカフェのTVCM「朝のリレー“空”」が放送。
日清/カップヌードルのTVCMシリーズ「NO BORDER」が放送。
キユーピー/キユーピー あえるパスタソース たらこのTVCM「行進」が放送。

2005

ライフ/ライフカードのTVCM「カードの切り方が人生だ」が放送。
Apple/iPod+iTunesのTVCMが放送。
中央酪農会議/牛乳に相談だ。キャンペーンのTVCMが放送。

2006

Apple/MacのTVCM「Get a Mac」
が放送。
サントリーホールディングス/BOSSのTVCMシリーズ「宇宙人ジョーンズ」が放送。
リクルート/B-ingのTVCMシリーズ「ショッカーの転職」が放送。

2007

日立マクセル/マクセルDVDのTVCMシリーズ「ずっとずっと。」が放送。
NTTドコモのTVCMシリーズ「DoCoMo2.0」が放送。
ユニクロ/「ユニクロック」がスタート。
ソフトバンクモバイル/ホワイト家族のTVCMシリーズ「白戸家」が放送。

2009

トヨタ自動車/オールトヨタのTVCMシリーズ「こども店長」が放送。
ロッテ/Fit'sのTVCMシリーズ「フィッツダンス」が放送。

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