案内人・内沼晋太郎
ゲスト・松浦弥太郎
出版不況時代に新スタイルが続々誕生
洋書、古本も面白い。ジャンルを飛び越えたセレクトは本屋の外へ
出版物の販売額は1996年に最高額を記録して以来下降を続け、当然ゼロ年代も「本が売れない」と言われました。それに輪をかけて、2000年にはAmazonが上陸。さらに02年にはAmazonマーケットプレイスが登場し、当時たくさんあった個人のオンライン古書店も05年くらいから下火に。ゼロ年代後半には電子書籍が話題で、10年には『電子書籍の衝撃』という本が出版されています。
一方、本を売る側には新たなムーブメントが起こっていました。ゼロ年代に象徴的なのは、洋書や古本の選書が魅力のセレクトショップのような本屋が現れたこと。業態もブックカフェをはじめバリエーションが増え、文学フリマなどのイベントも誕生しています。10年代に入ると〈本屋B&B〉も含め、新刊を扱ういわゆる独立系書店が続々登場するようになります。
ゼロ年代前半の本屋の在り方は、03年に発売した『ブルータス』の本屋特集を紐解くとわかりやすい。その号は「新しいスタイルの『本屋』が気になる!」と題し、100人の本好きが薦める300店を紹介する一冊。
いわゆる町の本屋や専門書店、また〈ヴィレッジヴァンガード〉の名前もあります。メインに取り上げられているのは〈カウブックス〉【A】、〈ユトレヒト〉【B】、〈ハックネット代官山店〉【C】でした。〈カウブックス〉はアメリカのカルチャーを軸にした古本、〈ユトレヒト〉も当時は古本がメインで、〈ハックネット代官山店〉は空間作りにも手が込んだ洋書専門店でした。
どこもセレクトショップのような品揃えをしていたことが特徴的で、この時期の象徴的なスタイルだったと言えるでしょう。この号が出たときはちょうど新卒で入社した会社を辞めようとしていた頃でした。この誌面に登場する人たちのように働きたいと思ったことを覚えています。
また、新刊のみならず、古本や洋書も含めて独自にセレクトするのが面白いといった空気感は、例えば、1999年から3巻にわたり発行された本『グルーヴィー・ブック・リヴュー』などにも表れています。「本のレア・グルーヴ」を掲げ、編集者やライター、ミュージシャンやモデルらがおのおのテーマを立てて本を紹介するブックガイドでした。
また、ブックカフェの形態が注目されるようになるのもこの時期。この言葉を使った本としては05年に発売した『ブックカフェものがたり』が最初期のものの一つでしょう。03年にはスターバックス併設の〈TSUTAYA TOKYO ROPPONGI〉がオープン。この店はあくまで書店にカフェが併設している、という造りでしたが、当時主流だったのは飲食中心で本が並ぶスタイルだったように思います。
また、飲食店以外でも本が買える場所は広がっていきます。05年にはインテリアショップ〈finerefine〉がオープン。選書は〈ユトレヒト〉の江口宏志さんと〈BACH〉の幅允孝さん【D】です。同年、アパレルを中心にしたコンセプトストア〈TOKYO HIPSTERS CLUB〉に備えられた本棚で僕も本をセレクトしました。今の肩書である「ブック・コーディネーター」もこの頃に名乗り始めたもので、目新しい仕事でもありました。
そして現代から振り返り重要なことは、02年に文学フリマが、05年に不忍ブックストリートで最初の一箱古本市が、09年にTOKYO ART BOOK FAIRがスタートしていることです。08年には雑誌『スタジオ・ボイス』で「本は消えない!」という特集が組まれています。
盛り上がりつつあったZINEやリトルプレスの世界も含めて紹介した一冊です。このリトルプレスという単語は、例えば06年に発売された本『リトルプレスの楽しみ』で確認できます。帯には「リトルプレスってなに?」とあり、新潮流として認識された時期であることを示していますね。
2000
オンライン古本屋〈海月書林〉がスタート。
〈m&co.traveling booksellers〉(代表・松浦弥太郎)がトラックで移動販売をスタート。
Amazonが日本でサービスを開始。
2001
『インターネット的』(著/糸井重里)が発売。
2002
本屋〈カウブックス〉がオープン。
本屋〈ユトレヒト〉がオープン。
Amazonマーケットプレイスのサービスが提供開始。
文学フリマがスタート。
2003
本屋〈ハックネット代官山店〉がオープン。11年に閉店。
本屋〈TSUTAYA TOKYO ROPPONGI〉がオープン。
「新しいスタイルの『本屋』が気になる!」(『ブルータス』6月1日号)発売。
2004
本屋〈BOOK 246〉がオープン。14年に閉店。
〈渋谷パルコ〉でイベント『新世紀書店』が開催。06年に書籍化(著/北尾トロ、高野麻結子)。
2005
インテリアショップ〈finerefine〉がオープン(選書/幅允孝、江口宏志)。08年に閉店。
『不忍ブックストリートの一箱古本市』がスタート。
コンセプトストア〈TOKYO HIPSTERS CLUB〉(選書/内沼晋太郎)がオープン。10年に閉店。
『本屋さんの仕事』(著/永江朗、北尾トロほか)が発売。
『ブックカフェものがたり』(著/矢部智子、今井京助ほか)が発売。
2006
『リトルプレスの楽しみ』(著/柳沢小実)が発売。
〈ON READING〉の前身〈YEBISU ART LABO FOR BOOKS〉がオープン。
2008
BEAMSの新業態〈TOKYO CULTUART by BEAMS〉がオープン(選書/内沼晋太郎)。原宿店は21年に閉店。
本屋〈SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS〉がオープン。
「本は消えない!」(『スタジオ・ボイス』7月号)発売。
2009
TOKYO ART BOOK FAIRがスタート。
レストラン〈ブルックリンパーラー新宿〉(選書/幅允孝)がオープン。