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ゼロ年代カルチャー再考:ホラー対談編。シーンを担う怪談師が揃った伝説の大会

ゼロ年代の様々なカルチャーを、現在シーンの一線で活躍する案内人による解説(前編)と、当時を知る証言者との対談(後編)の交互で読み解いていく連載。今回は「ホラー」の後編。案内人は怪談師の吉田悠軌さん。証言者は、90年代から実話怪談本『「超」怖い話』シリーズに参加し、現在4代目の編著者を務める加藤一さんだ。

前編はこちら

text&edit: Ryota Mukai

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案内人・吉田悠軌
証言者・加藤 一

2006年が実話怪談の転換点。シーンを担う怪談師が揃った伝説の大会の裏話

加藤一

90年代はノストラダムス一色でした。不景気になるとホラーが流行る。他人の不幸の需要が増えるんですね。戦後直後にはエログロナンセンス、70年代のオイルショック直後にはテレビで『あなたの知らない世界』や漫画『恐怖新聞』がヒットしました。そしてバブル崩壊の余波で90年代中期からゼロ年代にかけて実話怪談の興隆とJホラー繚乱の時代がやってくる。

この過程で実話怪談は大きく姿を変えてきました。それまでは怪談といえば芸能人がテレビで語るものがメジャーでしたが、芸能人以外が語る怪談が求められるようになったのです。こうした状況の中で若い書き手を求めて、2006年に始めたのが実話怪談コンテスト『超-1』【A】でした。

吉田悠軌

私が加藤さんと出会ったのも『超−1』でしたね。いたこ28号さんや深澤夜さんら、現在も活躍する書き手も参加していて。打ち上げで自分以外の怪談のプレーヤーに初めて会いました。でもあれはひどい大会でしたよ(笑)。私たちは壺の中で殺し合いをさせられる毒虫、まるで蠱毒(こどく)!

加藤

『超-1』の参加者には実話怪談を執筆するだけでなく、集まった作品の講評・採点もしてもらいました。私としては、書ける人は読める人でもなくてはならないと考えたんです。そして辛い評価にも耐える必要がある。ただ、この方式の副作用として、参加者同士が打ち上げの場でギスギスするようになってしまいましたが(笑)。

また、ゼロ年代の実話怪談を語るうえで“平山メソッド”は外せません。『「超」怖い話』3代目編著者でもある作家・平山夢明【B】さんの執筆スタイルです。その大きな特徴は「体験者を取材する著者自身を作中に登場させること」、そして「インタビュー風景と体験の再現ドラマをザッピングすること」にあります。

この体験者はいわば素人なので、台詞(せりふ)にたどたどしさがある方がリアリティが出る。だから、誰でも話を怖いものにしやすいんですね。単に簡単ということではなく、体験者の実在が感じられる、つまり実話怪談の本質を描けるという点で強力な文体でもあるんです。

吉田

いわゆる小説とは違う、実話怪談ならではの表現方法ですよね。現在の怪談シーンでは、ホラー小説寄りの怪談が好きなファンか実話怪談のファンのどちらかにはっきり分かれる二極化が進んでいますが、その始まりの時代とも言えますね。

加藤

今では実話怪談の新人といえば、文章よりもライブや配信で活動する印象が強いですね。その萌芽もまたゼロ年代にありました。

吉田

私が五反田怪団【C】を始めたのは06年でした。現役で定期開催し続けている怪談ライブとしては最古のものの一つだと思います。

加藤

ネットラジオもありますね。05年にはポッドキャストの配信サービスもスタートしました。

吉田

インターネット情報を教えてくれる『ヤフーBBマガジン』という雑誌があった頃ですね。音声メディアは深夜ラジオのように楽しめて、怪談との相性も良かった。

そういう意味では、80年代から続いた大阪のラジオ番組『誠のサイキック青年団』【D】には大きな影響力がありました。怪談はキラーコンテンツでしたから。当時は怪談は大阪の方が盛り上がっていて、西高東低という感じでしたね。

加藤

その語り口も、西では会話調、東では一人称語りとそれぞれに特徴があったように思います。それもゼロ年代半ば頃から、音声メディアの発達に伴って融合していく。実話怪談本に話を戻すと、08年のリーマンショックは市場拡大の強い追い風となりました。それまでは2、3ヵ月に1冊刊行されていたのが、ひと月に2冊ペースと増えていくんです。

吉田

景気が好転しないどころかますます悪くなっていく一方、ということで。竹書房の怪談文庫【E】の刊行ペースを知れば、日本の景気がわかりそうですね(笑)。

加藤

こうして振り返ると、06年はターニングポイントでしたね。文章では若手発掘が始まり、ライブやラジオなど発表の場や方法も広がり始めていた。今後は“平山メソッド”とは違う、新しい怪談の誕生に期待しています。

ポイントは「カメラの位置」にあるはずです。平山メソッドの場合は、体験者に向かって平山さんの肩越しにカメラが構えてあります。ほかにも体験者自身の位置に、そしていわゆる神の視点にカメラを置く方法がありますね。このどれとも異なる、第4のカメラがかつてない恐怖をもたらしてくれるはずです。

吉田

新視点の登場にはもうちょっと時間がかかる気がします。私はより平山メソッドを洗練させていきたいです。怪談収集家の煙鳥さんが聞き集めた話を、煙鳥さんに聞き検証して文章にする、という仕事も実話怪談だからこそできること。小説とは異なる、実話怪談ならではの形を磨き上げていきたいですね。

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