湖里庵（滋賀／高島）
鮒寿司懐石：
奥琵琶湖のほとりで、滋味深き土地の恵みを味わう至福
天明4（1784）年創業の鮒寿司の老舗〈魚治〉が営む料理旅館。店名は常連だった作家・遠藤周作が、自身の雅号「狐狸庵山人」から名づけた。
玄関に飾られているのは遠藤周作直筆の掛け軸を写した看板。中にはオリジナルも。 
〈京都吉兆 嵐山本店〉での修業後、2003年に家業を継いだ左嵜さん。客に「湖魚の魅力を直接伝えたい」と、カウンターを新設したという。 
2階は1日1組限定の宿。奥琵琶湖の景観が北欧のフィヨルドに似ていることから、デンマークのブランド〈フィンユール〉の家具を置いている。
鮒寿司とは、琵琶湖の固有種であるニゴロブナを塩漬けした後、米飯とともに自然発酵させる「なれ寿司」。通常、数ヵ月で食べられるようになるが、〈魚治〉では2年近く熟成させる。「その間、発酵に欠かせない乳酸菌のお世話をするのが私の役目です」。7代目当主であり、料理人でもある左嵜謙祐さんがこう話す。
鮒寿し懐石は全10品。天ぷらや茶漬けといった鮒寿司を使ったメニューに加え、コイやアユ、ビワマスなど琵琶湖でとれた“湖魚”を味わえる。特に子持ちのフナが揚がる4月頃は、塩ゆでした魚卵とともに食す刺し身が美味。澄んだ湖水で育ったフナの身はコリコリとして、噛むほどに甘やかだ。
鮒の子付きは、魚卵のプチプチとした食感も楽しい。 
初心者でも手軽に鮒寿司を食べられるお茶漬け。鮒寿司と一緒に漬けられていた、酸味と旨味のある飯が添えられており、溶かしながら食べると味変に。 
飯をチーズ代わりに使ったパスタはコク深いのに後味はさっぱり。同じ米由来の日本酒と合わせるのがオススメ。
2018年の台風被害による全壊を乗り越えて、2021年春再建した〈湖里庵〉の特等席は、湖と左嵜さんの仕事の両方を間近に眺められるカウンター。「景色ごと、琵琶湖の恵みを楽しんでほしいですね」
琵琶湖を一望できる1階のダイニング。どの席からも湖が美しく見えるよう、カウンターは斜めに配置されている。 
ビワマス幽庵焼きやセタシジミの味噌汁など湖魚ずくめの朝食。土鍋ご飯も美味。
