L'évo(富山/南砺)
イノベーティブ:
辺境から発信する革新的な地方料理
3月半ば、〈レヴォ〉の敷地はまだ雪に覆われていた。富山駅から峠越えの道を約2時間。アクセスは決してたやすくない。でも、着いてしまえば旅の疲れなど吹き飛ぶ心地。ゆったりとしたレセプションにくつろげば、厨房から漏れる薪火の温かな香りが芳しい。別棟の客室は、窓が切り取る景色が室内の空気まで浄化するかのようだ。
富山市内で高い評判を得ていた〈レヴォ〉が利賀村に移転したのは2020年。谷口英司シェフが選んだ“理想郷”は、自然の恵みが眠る山間の集落だ。
15皿のコースで供される料理は、ジビエは脂まで美しく、野菜やハーブは香りが鮮烈。この日は、生きたまま薪火で炙ったホタルイカが供された。針穴に糸を通す緻密さで作られていながら、味わえば山へ、その先の海へ意識が広がっていく。
帰りの心配がないのは宿付きレストランの魅力だが、それだけではない。夜の静寂に浸り、森の目覚めに耳を澄ませば、そこに棲む命の気配に味の記憶が蘇り、体に染み渡る。そう考えれば険しい山道も、美しいアプローチなのだ。