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必要な空間を、必要なタイミングで、自分の手でつくる。DWELL主宰・川畑健一郎さんの部屋作り


無駄のない住空間。そんな言葉がふさわしいのは、実は一見モノが多いようにも見えるこんな家なのではないか。始めに大きな箱を準備し、家族や生活の変化に合わせ、自分の手で必要な空間をつくってきた、川畑健一郎さんの住まい。そのセルフビルドの極意とは。

Photo: Keisuke Fukamizu / Text: Sawako Akune

家族がその時々に必要とする空間を、
自分の力と速度でつくり続けながら、住む。

Playmountainの家具製作などを初期より手がけ、現在は、インテリア設計や、家具のデザイン・製作などを行う川畑健一郎さん。彼が実家のある鹿児島に工房を構えたのは18年前。父親と共に鉄骨を組み上げてつくった武骨なその工房棟が、すべての始まりだ。

父親と共に鉄骨を組み上げてつくった武骨なその工房棟
鹿児島で家具製作を始めた1999年、最初に建てたのがこの工房棟。それから約8年後、ここだけでは手狭になり、庭を挟んだ向かい側に建てた鉄骨の建物が、徐々に住居棟になっていった。
住居棟1階のアトリエスペース
住居棟1階のアトリエスペース。道具類やサンプルなどが並ぶここで、クライアントとの打ち合わせを行うことも。奥に見える斜めの壁は、息子たちがクライミングの練習用に使える仕様。

「7、8年ほどして工房だけでは手狭になってきたので、ショールームを兼ねたアトリエ棟をもう一つ、建てることにしたんです」

天井の高い鉄骨造、ガルバリウム鋼板の外壁といった基本的なつくりはそれまでの工房棟と同じ。さらにここに住むことを決め、住空間を足していった。

「どうせなら住んでしまおうかと。鉄骨造の中にさらに木造で必要な空間をつくっていくイメージです。まずは2階にプライベートスペースをつくり、リビングからはデッキテラスを張り出しました。その後も、必要に応じてスペースや機能を足しながら住んできたという感じです」

アトリエの吹き抜け部分にあるロフト状の個室
子供の成長に伴い、吹き抜けだった住居棟アトリエの2階部分に、ロフト状の個室をつくった。パーテーションやその奥のベッドフレームには、工事用のパイプを利用。
壁掛け収納《ウーテン シロ》を取り付けた扉
住居棟1階、薪ストーブを置いた書斎からエントランスを見る。壁掛け収納《ウーテン シロ》を取り付けた壁は実は扉。向こう側にはゲスト用のトイレがある。
L字形2階建ての住居棟
L字形2階建ての住居棟。当初は工房として建てたため、鉄骨造にガルバリウム鋼板の外壁というシンプルなつくり。この中に木造で必要な部屋を足しつつ住んできた。

例えばこの家は、元は住居として考えていなかったために断熱層をとっておらず、冬場は家中がかなり冷え込む。それに気がついてからは、1階に薪ストーブを設え、その周辺にデスクやデイベッドを置いて火の番ができる書斎とした。あるいは息子たちが成長したタイミングで、アトリエの吹き抜け部分にロフト状の個室をつくったり、本格的にクライミングに取り組み始めた息子のために、クライミングルームをつくったり、はたまた、いつでも家族で食事が楽しめるようにデッキテラスやその下の屋外キッチンを設けたり……。

本格的なクライミングウォールを設置
高校生の長男は、クライミングでのオリンピック出場を目指して毎日4、5時間の練習を積むアスリート。住居棟1階には本格的なクライミングウォールを設置。

設備や電気工事など、大掛かりなところではプロの手を借りつつ、基本的には川畑さんが考え、自身の手を動かして、“つくり続け”ているという。H形鋼や鉄パイプ、工事現場の足場板などを多用したり、古道具屋で見つけたものを組み合わせたり。費用をかけすぎることなく、知恵と技術でつくり上げてきた住空間だ。

「常にそこに住む家族優先。暮らしていくなかの不便や不自由を、一つずつ解消してきただけです」
成長を続けるこの家に、次にどんな変化が待つのだろうか。

川畑健一郎さんと妻の夕さんと愛犬ロイド
妻の夕さん、愛犬ロイドと。2人の背後が屋外キッチン、その上が家族のデッキテラス。3年前にロイドがやってきて、壁とフェンスで囲ったドッグランをつくった。