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十勝の自然を切り取るピクチャーウィンドウのある家

朝目覚め、ベッドで日の光に包まれる。手間をかけてランチを作り、丁寧に淹れたコーヒーで小休止。家にいる時間は最高の贅沢だ。リビング、キッチン、ベッドルーム、レコードや本、家具と道具、住む場所と機能。いつもより長く家にいられるのだから、家について、ライフスタイルについて考えてみる。

Photo: Tetsuya Ito / Text: Tami Okano

市街地から「移住」して手に入れた
大自然への眺め。

北海道は帯広の市街地から車で約20分。牧草地に囲まれた音更町のなだらかな丘陵地に、きれいな長方形をした切妻屋根の家が立っている。住人は帯広で畜産会社を経営する佐々木章哲さんと妻の詩音さん。以前は市内の集合住宅に暮らしていたが、2019年にこの家を建て、引っ越してきた。

敷地は40年前に佐々木さんの祖父が購入した土地の一角で、一角といっても佐々木さんが買い受けた土地だけで3000坪はある。

家を訪ねてまず目につくのが、敷地南側にある小さな湖みたいなひょうたん池だ。敷地内で祖父が汲み上げた地下水をそのまま流していて、「通常の生活用水より温度が高いので、温泉かも」と佐々木さん。音更町は、十勝川温泉の町としても知られている。

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十勝平野のほぼ中央に位置する河東郡音更町。3,000坪という建てる場所には困らない敷地にあって、家の配置計画のポイントになったのは池との関係と窓からの眺めだった。

池を横目に玄関を入ると、真っすぐに見えるのは、対岸の丘とカラマツの防風林。リビングをはじめ、室内のどの窓からも、切り取られた周辺の景色が絵画のように見える。設計は東京のランドスケーププロダクツ。

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吹き抜けのダイニングから続く1階のリビング。窓辺に腰かけられるリビングの出窓は、妻の詩音さんのリクエスト。ソファはこの家に合わせた造作でダイニングテーブルはハンス・J・ウェグナーのCH327。

「家業の畜産会社を継ぐことになり帯広に戻ってきたのですが、大学は東京で、家具屋でアルバイトをしていたんです。そこでランドスケーププロダクツの中原慎一郎さんと出会い、卒業後、アメリカに住んでいた頃も買い付けのお手伝いをさせていただいたりと交流が続きました。家具業界からは足を洗いましたが(笑)、家を建てるなら中原さんのところにお願いしたいとずっと思っていました」

1階は土間のグリーンルームと吹き抜けのダイニング、出窓のあるコージーなリビングと続き、2階は吹き抜けを挟んで南北に寝室とゲストルームが振り分けられている。端正な長方形をグリッドで分けた無理のないプランで、住み心地への不平不満は特にない。

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玄関から、土間のグリーンルームと、ピクチャーウィンドウが切り取った景色を見る。敷地のそばを流れる川の対岸、なだらかな丘の上には、防風林のカラマツが律儀に並ぶ。
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グリーンルームとダイニングの間のガラスの引き戸は、フレームに厚さ10㎝の角材を使い、存在感を出した。額縁効果もある。土間はモルタル仕上げ、フローリングの床材はオーク。
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吹き抜けに面した2階の廊下。家全体を通して壁の仕上げは白のペンキで、切妻屋根の形をそのまま受けた斜めの天井も、壁と一体として白く塗り込めることにこだわった。

「住んでみて大変なことは、草刈りですかね。家の周りの草刈りだけで休日がつぶれることもあります。それなら、と除草のためにヤギを放ったこともあるし、特に手が回らない対岸の敷地は、夏の間、地元の人に馬を放牧してもらい草を食べてもらっています」

詩音さんは東京都出身。佐々木さんも市街地育ちで「田舎暮らし」はしたことがなく、経験値はまっさらな移住者と同じ。周辺には熊も出るとあって、この家に来てから迎えたビーグル犬も「熊除けになってくれれば」と冗談半分で笑う。自然の営みは思ったより厳しい。それでも、窓を見れば四季折々の美しい景色。もうすぐ始まる新緑の季節を楽しみにしている。

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煙突の左右、高い位置にある2つの開口は空を切り取るための窓。薪ストーブと並ぶ椅子は1963年に豊口克平がデザインしたスポークチェア。ビーグル犬、ピータンのお気に入り。