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祖父母の家を住み継ぐ。鹿児島ゆかりのクリエイターと造り上げた家

広い前庭を抜けてその家に近づくと、ふわりと玄関前のローズマリーが香った。鹿児島県鹿屋市で、植物を中心としたセレクトショップ〈Araheam(アラヘアム)〉を弟と営む前原良一郎さんの家。この地に続く家族の物語を、さらに未来へつなぐ一軒だ。

Photo: Keisuke Fukamizu / Text: Sawako Akune

家族と仲間が集う場所への思い

「ここはもともと、母方の祖父母の家。正月や長い休みには、一族が集まり、大人も子供も大勢で賑やかに過ごした場所なんです」

ダイニング、キッチン、リビングと書斎が、間仕切りなしにつながっていく1階の大空間に座り、そう話す前原良一郎さん。一昨年に祖父が亡くなり、売りに出されることが決まりかけていたというこの家を、500坪の土地ごと購入してリノベーション。昨年7月から住み始めた。

「思い出のある家が人の手に渡るのは悲しいという思いが、やはりありました。誰も住まないから僕に譲るとも言われたけれど、後々のことを考え、きちっと買うかたちをとって。同年代のいとこや、新たな家族を持った兄弟も、今もこのあたりに住んでいる。さらに僕らの仕事の関係で遠方から訪ねてくる人も増えた……。家族同士、友人同士が気兼ねなく集まれる場所を残したかったんです」

薪ストーブがあるリビングダイニング
伸張式のダイニングテーブルをはじめ、家具はこの家のために新たに作ったり、買い足したりしたものが多い。家中を暖めてくれる薪ストーブはイタリア・デマニンコア社のもの。

祖父が1980年代に建てたというこの家は、建築面積100坪ほど、鉄筋コンクリート造の2階建て。シンプルな箱形ながら、バルコニーの庇の深さは南国・鹿児島らしさを、元からあったという玄関ホールの吹き抜けは、祖父母の洒落たセンスを物語る。

リノベーション設計や家具のセレクトは中原慎一郎氏率いるランドスケーププロダクに、造り付けの棚などはRoamの松田創意氏にと、いずれも親交のある鹿児島ゆかりのクリエイターの手に委ねた。

外観と庭
外観はほとんど手を入れていないそう。目下の予定は前庭に芝を張り、シンボルツリーを植えること。さらにガレージで犬のトリミングサロンをオープン予定なのだとか。
親戚や友人たちを迎えるのが大前提の家。大空間の1階に、一室だけ扉の閉まるゲストルームを設えた。小さな子供がいたり、大勢で寝る場合にも使い勝手のいい畳敷きを選択。

「鹿屋は鹿児島のなかでも不便な場所。そんな場所に〈Araheam〉をオープンし、続けてこられたのは、そんな仲間たちのおかげでもある。家を造るなら彼らとというのは、自然の流れでした」

2階部分や階段など、元のままに残せる部分は極力生かしつつ、水回りはすべて刷新。ひとつながりとしたフローリング張りの1階には、畳敷きのゲストルームを設えて、ゲストルームを確保した。夏までに、一緒に店を営む前原さんと2人の弟たちの3家族にはそれぞれ子供が生まれるそう。新しい世代の一族が、昔と同じようにここに集うことだろう。家は常に、その物語に寄り添い続ける。

祖父が残した家を、次の世代へと生かす。