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どんな家に住むかより、どう住みこなすか。服に対する思いと重なる居住空間学

20代の頃にLAに渡り、デニムメーカーのディレクターとして世界各地を飛び回ってきた大坪洋介さん。半年前から住む東京・世田谷の自宅は築40年の戸建てのリノベーション。そこには大坪さんの「愛すべきもの」が詰め込まれている。

Photo: Keisuke Fukamizu / Text: Tami Okano

時間をかけて集めた収集品や家族の記憶、愛すべき物たちに囲まれる家。

何を着るかより、どう着こなすか。長年ファッションの世界に身を置いてきた大坪さんは、服に対する思いや信条を、そう話す。

「高価な素材や高名なデザインのものは確かにいい。でもそれがすべてではない。家も同じで、ベースはとても重要だけれど、一番大事なのは自分らしく、どう住みこなすか。ここでいえば、古い家の残すところと新しくするところを見極め、明るくて清潔で、居心地のいい場所にすることでした」

壁を埋め尽くすアドバタイジング・アート。
1階の図書室。造り付けの本棚は既存のもの。耐震補強のため窓をつぶし、筋交いを入れて壁にした。「飾りたいものがたくさんあるから壁は大歓迎」。その壁には、1961年にリック・グリフィンが『サーファーマガジン』創刊の告知のために描いたドローイングのオリジナル。ミシュラン社のビバンダムも長年集めてきたものの一つ。

元の持ち主は北欧に長く暮らしたジャーナリストで、造り付けの家具をはじめ、木をふんだんに使った家の造作はどこもかしこも、よくできていた。改修にあたり、床の絨毯を剥がしたら、飴色のヘリンボーンが出てきたことも。

それを残そうか一瞬迷ったというが、「明るさと清潔感」を優先し、無垢の樺材に張り替えることを選んだ。既に形あるものを前に、よりよい未来の姿を想像し、改めていくことは、ただ残すことを目的に手を入れるより実はずっと難しい。その取捨選択は、毎週末、現場で何時間もかけて行ったという。

造り付けのキャビネット
南西に窓を持つ明るいリビングの一角。リノベーション前には壁側に備え付けられていたキャビネットを、南の窓側に移動。ガラスケースの中には、無名の作家の陶器から、かのパブロ・ピカソが1956年に手がけた世界で500枚の陶板画まで、選りすぐりの収集品が収まる。陶板画にはスウェーデンのアンティークショーで出会った。

そして完成した新居に、大坪さんは、これまで集めてきた家具やアート、オブジェなどのコレクションを飾り、整えていった。それらのディスプレイは、大坪さんにとって「家を自分らしく住みこなす」ために欠かせないものだった。

ポップなアドバタイジングからピカソなどの現代美術まで、関心のある分野は多岐にわたり、LAからの帰国時に持ち帰った収集品はなんと、コンテナ40フィート分。

30年以上かけて集めたキュビスムの作品たち。
2階の書斎。「持っているものはすべて好きなものだから、できるだけ飾りたい」という大坪さんが、家族に気兼ねなく、好きなだけアートを飾れる部屋とあって1階の図書室同様、壁一面がディスプレイに。写真右手の小さな3枚の絵は、フランスのキュビスムの作家、ジョルジュ・ベルミエの作。1910年代のロシアのポスターの原画も。
電球を組み合わせた自作の照明。
2階の廊下の天井には、LA時代に自らの手で組み合わせたシャンデリアを。写真左手の絵画は、20年近く前によく通っていたキューバで買い求めたもの。右手のポスターはフランスの電気メーカーのポスター。1950年代。

「集める数やスピードに関係なく、自分が気に入ったものだけを、ゆっくり、時間をかけて集めてきました。帰国後は置いておく場所がなく、少しずつ整理して厳選、今家にあるのは、日々の生活の中で眺めていたいものばかりです。それをどこにどう置くかは一大重要事項。住んで半年、少しは落ち着いてきたけれど、ここがいいかな、あそこがいいかな、というのは、おそらく、一生かかると思います」

ジョージ・ナカシマのコノイドテーブルがある1階ダイニング
1階ダイニング。リビングとダイニングをつなげ、対面式キッチンにするのは妻の容子さんの念願。ダイニングテーブルはジョージ・ナカシマのコノイドテーブル。耐震改修も力を入れ必要なところはすべて筋交いを入れた。
リビングでくつろぐ大坪さん
リビングでくつろぐ大坪さんと小学生の娘の華子さん。窓辺には、カーテンやブラインドではなく、岐阜県の美濃和紙を使った障子を選んだ。明るく伸びやかな空間に、欧米の名作家具と、日本の建具とが調和する。

最近増えたのは娘の華子さんが描くイラストや油絵。額装して飾ることも多い。その成長する家族の大切な記憶と共に、大坪さんの居心地のいい家が作られていく。

リノベーション、残すところ、大事なところ。