時間をかけて集めた収集品や家族の記憶、愛すべき物たちに囲まれる家。
何を着るかより、どう着こなすか。長年ファッションの世界に身を置いてきた大坪さんは、服に対する思いや信条を、そう話す。
「高価な素材や高名なデザインのものは確かにいい。でもそれがすべてではない。家も同じで、ベースはとても重要だけれど、一番大事なのは自分らしく、どう住みこなすか。ここでいえば、古い家の残すところと新しくするところを見極め、明るくて清潔で、居心地のいい場所にすることでした」
元の持ち主は北欧に長く暮らしたジャーナリストで、造り付けの家具をはじめ、木をふんだんに使った家の造作はどこもかしこも、よくできていた。改修にあたり、床の絨毯を剥がしたら、飴色のヘリンボーンが出てきたことも。
それを残そうか一瞬迷ったというが、「明るさと清潔感」を優先し、無垢の樺材に張り替えることを選んだ。既に形あるものを前に、よりよい未来の姿を想像し、改めていくことは、ただ残すことを目的に手を入れるより実はずっと難しい。その取捨選択は、毎週末、現場で何時間もかけて行ったという。
そして完成した新居に、大坪さんは、これまで集めてきた家具やアート、オブジェなどのコレクションを飾り、整えていった。それらのディスプレイは、大坪さんにとって「家を自分らしく住みこなす」ために欠かせないものだった。
ポップなアドバタイジングからピカソなどの現代美術まで、関心のある分野は多岐にわたり、LAからの帰国時に持ち帰った収集品はなんと、コンテナ40フィート分。
「集める数やスピードに関係なく、自分が気に入ったものだけを、ゆっくり、時間をかけて集めてきました。帰国後は置いておく場所がなく、少しずつ整理して厳選、今家にあるのは、日々の生活の中で眺めていたいものばかりです。それをどこにどう置くかは一大重要事項。住んで半年、少しは落ち着いてきたけれど、ここがいいかな、あそこがいいかな、というのは、おそらく、一生かかると思います」
最近増えたのは娘の華子さんが描くイラストや油絵。額装して飾ることも多い。その成長する家族の大切な記憶と共に、大坪さんの居心地のいい家が作られていく。