反戦メッセージを込めた楽曲
「What's Going on」を
マーヴィン・ゲイが歌うとき
ミュージシャンは政治的な発信をすべきか。今年のアカデミー賞で23歳のR&BシンガーH.E.R.が、BLM運動を想起させる楽曲「Fight For You」で歌曲賞を受賞したことも記憶に新しいですが、コロナ禍の不安定な社会に葛藤する日本のアーティストにも重くのしかかるテーマだと思います。
そんな状況に示唆をくれるのが、R&Bの礎を築いた音楽レーベル・モータウンの歩みを記録した本作の中の、マーヴィン・ゲイによる1971年のアルバム『What's Going on』を取り巻く動きです。
ベトナム戦争に際し、各少数コミュニティが反戦を訴えていた当時のアメリカで、ゲイは表題曲で「戦争は答えではない、愛だけが憎しみを克服できる」と社会に語りかけました。
作中、曲の発表にあたり“白人に好かれる黒人の音楽”を形にしてきたモータウンのイメージを損なうのではと苦悩した周囲の心情も回顧されますが、ゲイがそうした懸念を振り払い、この曲を力強く歌い上げるシーンはとにかく圧巻です。
R&Bが再評価され、当時を経験していないH.E.R.のような世代にも、彼の精神が受け継がれていることこそが、音楽の、人々の心に訴えかける力の大きさを物語っているんじゃないでしょうか。