廃墟になった監督の生家の内部を
上から見下ろすように撮ったシーン
これはラストシーン直前の風景で、背景には、アンデスの山々が映っています。生まれ育ったチリでクーデターが起きたのを機に、海外生活をしてきた映画監督、パトリシオ・グスマンが『光のノスタルジア』から撮り始めた、チリ3部作の最後がアンデス山脈。

グスマン監督は独白で、ずっと一人で仕事をし続けてきたことで深く孤独が刻まれたと吐露し、「できることなら、もう一度、家を再建して、やり直したい」と話した直後に、このシーンがやってきます。
実は冒頭にも同じように生家を映す場面があるのですが、その背景は山ではなく建物。監督の「やり直したい」という思いは、すでに「夢」でしかなく、到底、叶わないのだ、と切なく、ズンと心に響きました。
このシーンには、ずっとチリに残り、今も抗議行動や国の弾圧を撮り続けている本作の中心人物、パブロとの出会いがある気がします。あのままチリに残っていたら、どんな人生を送っていたのか。
監督自身が生きられなかった人生を、チリで生きてきたパブロと話すことで、蘇った「もう一度」という思いを、建物ではなく、アンデスを背景にした廃墟に託したのではないかと、今も心の中で問い続けています。
